第61話 サメ術師は発見する

 怒声に断末魔、悲鳴が響き渡る。

 そこに命令する声や泣き言が混ざっていた。

 国王の一団は大混乱に陥っている。


 彼らは王都壊滅からサメを警戒していた。

 移動中も常に意識し、対策は万全だったろう。

 決して油断していなかったはずだ。


 だから彼らは悪くない。

 こちらの戦力が、彼らの許容量を超えていただけである。

 ただそれだけの不運な事故だった。


(無駄だ。勝てるわけがない)


 俺の召喚するサメは、レベルアップを経るごとに強靭になっている。

 たとえ属性を付与せずとも、十分にふざけた性能なのだ。

 何も考えずに大量に召喚して雪崩れ込ませるだけで大半の敵は喰い散らかせる。


 そんな存在がD級映画みたいな属性を背負って勢揃いする。

 立ち向かう側からすれば、悪夢のようなものだろう。


 こうして眺めている間にも、一団が次々と捕食されていった。

 騎士や魔術師が死んでいく中で勇者達も犠牲となる。

 それに伴って俺のレベルはさらに上昇した。

 同時にステータスのSAMEが跳ね上がってさらに強化する。

 ここに素晴らしい循環が完成していた。


「いやぁ、壮観ですねー。これぞ世界平和ですよ、ええ」


 気の抜けた声がした。

 アティシアがいつの間にかすぐ近くで寝転がっている。

 その姿勢で呑気にサメ達の活躍を傍観していた。

 もう囮役は不要だと判断して引き返してきたらしい。


「…………」


 だらけるアティシアはほとんど無傷だ。

 手足にいくつか擦り傷があって鼻血も出しているが、致命傷とは程遠い。


(そうか……)


 俺はその姿を観察し、治癒効果を持つキュアー・シャークを召喚した。

 十字っぽい模様を持つその個体は、おもむろにアティシアの後頭部に噛み付く。


 とは言え、殺傷目的ではない。

 力加減を考えた甘噛みである。

 キュアー・シャークに噛まれたアティシアは、全身の傷がみるみると治っていった。


 それに気付いたアティシアは後頭部のサメを撫でる。


「ありがとうございます、サメ男さん。優しいですね。これがデレってやつですか?」


「違う。少しの負傷が明暗を分けることだってある。念のために治しただけだ」


 俺は即座に否定しながら説明する。

 相変わらずアティシアは鬱陶しい。


 しかし、今回はちょっとした発見があった。

 だからそこまで気分は悪くならなかった。

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