第60話 サメ術師は暴虐を披露する

 ヒュージ・マッスル・シャークが突進を披露する。

 加速しながら一団に飛び込み、展開された結界を粉々にした。


 直後に大爆発が起きる。

 遠目にも血飛沫が舞うのが見えた。

 高々と肉片も散る。

 人体の一部だろう。

 ひしゃげた人間も丸ごと飛んでいた。


 あれだけの巨体が猛スピードで衝突してきたのだ。

 到底耐えられるものではない。


 破滅的なパワーで人々を轢き潰したヒュージ・マッスル・シャークはやや遠くまで行き過ぎてからUターンした。

 そこから再び突進を開始する。


 そのまま二度目の蹂躙をかますかと思いきや、巨体が突如として両断された。

 まず口端から抉り込むように切り裂かれて、次に鼻先からサイコロ状に解体されていく。

 加速のままに肉片が地面を転がる結果となった。


 俺はその光景に感心する。


(さすが勇者だ)


 一団の中に大鎌を持った男がいた。

 姿が霞んで消えた後、サメが解体されたのである。

 間違いなくあいつの仕業だろう。


 物理特化系の勇者は様々な固有スキルを持つ。

 相手の体力や防御力を無視したり、切断までの過程をスキップするような反則野郎までいるのだ。

 それなりの消耗や反動があるが、あのヒュージ・マッスル・シャークを即死させられるのだから、お釣りが出るほどの成果と言える。


 そんな彼らが王都壊滅時に活躍できなかったのは、それだけ巨大ザメが規格外だったからだ。

 彼らがどれだけチートでも限界がある。

 きっとあの時も同じように解体しようと奮闘していたのだろう。

 さすがにスケールが違いすぎて通用しなかったに違いない。


 つまり勇者達も決して無敵の存在ではなかった。

 やり方次第では、この人数差を覆すのも可能ということだ。


(それに次の手はもう打っている)


 ヒュージ・マッスル・シャークが時間稼ぎしてくれた間に、ガン・シャークとブースト・シャークが指定の配置に移動していた。

 等間隔で並ぶ彼らは、国王の一団を包囲している。


 俺は微笑みながら小声で命令を下す。


「よし、撃て」


 次の瞬間、ガン・シャークが銃撃を開始した。

 容赦ない弾丸の雨が一団に襲いかかる。


 ヒュージ・マッスル・シャークの討伐で油断していた人々は、次々と蜂の巣になっていった。

 成果を挙げた大鎌使いの勇者も頭部が爆散して死んでいた。


 一部の冷静な者が魔術の防御を固めたり、己の武器で攻撃を弾いている。

 そこから徐々に移動して、包囲網を抜けようとしていた。


 俺はそんな彼らに追加のサメを派遣する。

 シャドウ・シャークは地面から迫り、ウイング・シャークは頭上から奇襲し、チェーンソー・シャークは真正面から斬りかかり、ボム・シャークは捨て身で特攻する。

 彼らは無慈悲なまでの蹂躙でただの餌と化した。


 戦闘開始からおよそ二分。

 国王の一団は早くも壊滅寸前にまで追い込まれていた。

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