第59話 サメ術師は奇襲を開始する

 アティシアが駆け足となり、手を振りながら一団へと近付く。

 まるで待ち合わせのデートに遅刻した彼女のような姿だ。


「こんにちはーっ! 皆さんお久しぶりですー!」


 数秒後、一団からの返答は攻撃という形で返ってきた。

 幾多もの魔術が山なりに発射されて、アティシアを狙って落下する。


 その光景を眺める俺は、肩を落としてため息を吐いた。


(全然信用されていないな……)


 もしかしたら、同じ勇者として騙し討ちができるかもしれない。

 そう主張したのはアティシアだ。

 結果はご覧の通りである。

 予想を裏切らないリアクションだった。


 あの一団は非常時の中で国王が選出されたはずだ。

 選び抜かれたメンバーとなっているはずである。


 現在、彼らは正体不明のサメ使いを警戒していた。

 基本的に第三者を疑うスタンスを固定している。

 たぶん身内にあたるであろう勇者すらも信用していないだろう。

 というか、王都を壊滅させられるだけの能力持ちなんて勇者くらいだ。


 だからこのタイミングで近付いてくる勇者は不審すぎる。

 ましてやアティシアは元から信頼されていなかった人間だ。

 彼らの判断は至極真っ当なものであった。

 何かの罠ではないかと勘ぐったとしても不思議ではない。


「わわっ、何するんです! 暴力反対ですよっ」


 逃げ回るアティシアに様々な攻撃が降り注ぐ。

 その中でも彼女は奇跡的に無傷だった。

 避けるのが上手いわけではない。

 まるで洗練されていない動きながらも、攻撃がなぜか当たらないのだ。

 固有スキルである【運命誘導】で自分の生存を優先させているのだろう。

 情けない姿だが、囮としては上手く機能していた。


(あれなら任せられそうだな)


 俺は連射型のガン・シャークを大量に召喚した。

 強化支援ができるブースト・シャークを同行させて一団に向かわせる。


 さらにヒュージ・マッスル・シャークを召喚した。

 巨大な筋肉ザメが、二種のサメを追い抜いて最前線を爆走していく。


 素のマッスル・シャークでも大型トラックに匹敵する突進力だ。

 そこにサイズと重力が加わったのだから、誰にも止められないパワーを獲得していることだろう。


 俺の派遣したサメの軍勢はアティシアのそばを通過し、国王の一団へと突き進んでいく。

 さっそく数種の魔術や矢による迎撃が飛んでくるが、そのすべてをヒュージ・マッスル・シャークが蹴散らしていった。


「よしよし、いいぞ」


 あそこにいる勇者の情報は、アティシアから聞いている。

 彼女が知っている範囲なので完璧ではないし、そもそもアティシアが騙そうとしている可能性がある。

 過信はできないものの、十分なアドバンテージと言えよう。


 俺には【勇者殺し】があるので、大抵の不利は捻じ伏せられる。

 サメ達には存分に暴れてもらおうじゃないか。

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