第58話 サメ術師は作戦を始動する

 数分後、俺達は然るべき準備を整えた。

 一定の距離をキープしながら国王達を追跡している。

 現在はだいたい二百メートル。

 位置としてはほとんど背後を取る形だった。


 隣にアティシアが、シャドウ・アサシン・シャークの中から這い出た。

 彼女は立ち上がって俺に確認してくる。


「本当に近付くだけでいいのです? 必要なことがあればやりますが……」


「十分だ。囮になってくれるだけでありがたい」


 アティシアに伝えた作戦はシンプルだ。

 まず彼女に国王の一団へと近付いてもらって、ひたすら注意を集めさせる。

 攻撃されるくらいがベストだろう。

 彼女には【運命誘導】があるのでどうせ死ぬことはない。


 元から信頼されていない勇者だったのから、こういった状況で裏切ったとしても不思議ではないはずだ。

 きっと国王達はアティシアの対処に没頭する。

 彼女の能力はそれだけ強いのだ。

 よほどの工夫がなければ殺すことは不可能である。


 そうしてアティシアが注目を集めたところで俺の出番だ。

 各種サメで退路を塞ぎながら蹂躙させる。

 戦力的にはまず負けないと思うので、俺の居場所さえバレなければ問題ない。

 あとは国王の逃走を防げたら完璧だ。

 大量の勇者も一気に始末することができる。


 インテリジェンス・シャークと話し合ったわけだが、結局はこういう流れが最適だということになった。

 たった二人で可能な作戦なんて限られてくるのだ。

 下手に複雑なことをしようとしても失敗する可能性が高く、リスクばかりが大きくなってしまう。

 それならば、単純明快で応用の利く作戦が一番だろうということになった。


 だからインテリジェンス・シャークからのアドバイスは、主にサメの使い方についてだった。

 属性の組み合わせや召喚すべき順番、効果的な陣形などを教わった。

 今後にも通じる知識だったので非常に感謝している。


 準備運動をするアティシアは不満げな目を俺に向けてきた。


「こんな美少女を囮にするなんて、サメ男さんは非情ですねぇ。モテませんよ」


「別にモテなくていい。目的達成が最優先だ」


「まったく真面目なことで」


 アティシアはため息を洩らしながら屈伸をする。

 やがて彼女は歩き出した。

 こちらを振り向かずに一言だけ告げてくる。


「勝手に死なないでくださいね?」


「あんたこそな」


 俺は淡々と言葉を返した。

 小さく笑ったアティシアは、特に気負わない様子で国王の一団に迫る。

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