第57話 サメ術師は作戦を練る

 しばらく移動した後、俺達はシャドウ・アサシン・シャークに乗り換えた。

 感知スキル持ちがいても誤魔化せるためだ。

 そろそろ国王との距離が近くなってきたので、警戒しておくことにしたのである。

 もちろんサメの口内に潜り込むスタイルだ。


 昼頃にはついに国王を視界に捉えた。

 数百メートルほど先を一列になった集団が歩いている。

 方角的に国内の別の領地を目指しているのだろう。

 サーチ・シャークによると、国王はあの中にいるようだ。


 アティシアは顎を撫でつつ思案する。


「あの一団が国王と護衛ですか。なかなか厳重ですねぇ。勇者もいるっぽいですし」


「よほど我が身が惜しいらしいな」


「そりゃそうでしょうよ。誰だって死にたくありませんから」


 アティシアはどこか皮肉った調子で笑う。

 それを無視して俺は国王の一団を観察する。


 サーチ・シャークで詳しく調べたところ、総勢二十人ほどの勇者がいるようだった。

 勇者ではないが、騎士や魔術師の数も多い。

 戦力としてはかなりのものだろう。


 今のところは見つかっていないが、辺りは見晴らしの良い平野だ。

 近づきすぎれば見つかってしまう。

 影に隠れていても、感知系スキル持ちには気付かれてしまうかもしれない。

 迂闊な行動は厳禁だろう。


「戦力的に大差がありますねぇ。また大きなサメで丸呑み作戦ですか」


「悪くないが、同じ手だと対策されるだろう。個人を狙うには向いていない」


 王都を壊滅させたあの攻撃も、この平野では有効とは言えない。

 巨大ザメは動きが遅い。

 絶対的なパワーは頼もしいが、それを活かせる場面は意外と限られている。

 ここで使ったところで、躱されてしまうのがオチだろう。

 そもそも王都壊滅の時点で逃げ切られているのだから、同じ手は通じないと考えた方がいい。


「作戦はもう決めている。従ってくれるか?」


「もちろんですとも! なんなりと命令してください。サメ男さんのために働かせてもらいますよ。というか、国王は召喚魔術のバックアップを持ってるでしょうし」


 そういえばアティシアの目的には、勇者召喚システムの破壊も含まれていたか。

 確かに国王がそれを所持していることは自然なことだろう。

 バックアップさえあれば、どこでもやり直せる。

 きっと他の領地で態勢を整えて、王国を再起させようとしているのではないか。


「ちなみに国王はそこそこ強いですよ。魔術と剣術を両立する万能スキル持ちだそうで。下手な勇者より戦えるんじゃないですかね」


「それほどか……」


「たまに騎士団のトレーニングに顔を出してたんですよね。かなりの脳筋マッチョマンでした。正面からやり合ったらまず勝てないと思いますよ」


「…………」


 アティシアの補足を聞いて俺は唸る。

 国王と言えば戦わない役回りだと思いきや、かなりの強さを持つらしい。


(こっちは二人。アティシアは攻撃に向いていない。そうなると、取れる策は限られてくる)


 迷った末、俺は手の中にインテリジェンス・シャークを召喚した。

 生み出したばかりのそいつを作戦会議を行う。


 インテリジェンス・シャークは派手な能力は持たないが、とにかく知能が高い。

 戦略的な発想が可能なのは検証済みだった。

 この場における最適解も出してくれるだろう。


 さっそく俺が提案して、インテリジェンス・シャークが微修正を兼ねた指摘する形で計画を進める。

 それによって作戦を決定した。

 俺は必要なサメを脳内でピックアップすると、いつでも不自由なく召喚できるように準備する。


(さっさと喰い殺してやるよ……)


 俺は不敵に笑うと、アティシアに作戦内容を伝えた。

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