第53話 サメ術師は招き入れる

 シェルター・シャークに入った勇者は、興味津々といった様子で内部を見回す。

 彼女はオーバーリアクションで驚きながら感想を述べた。


「ほほー、これがサメですか。すごいアレンジですね。というか、もう何でもアリじゃないですかー」


「……悪かったな」


「いえいえ、けなすつもりはありませんとも。すごいサメですよ、ええ」


 勇者は無駄に神妙な口調で言う。

 俺は苦い気持ちを隠さずに舌打ちした。


(まったく、順調だったのにどうしてこうなった?)


 あの対話の後、俺は勇者を招き入れた。

 彼女が「そろそろ中でお喋りしません?」と提案したからだ。

 俺は逆らえなかった。


 別に反論してもいいが、どうなるか分からない。

 彼女の能力は今も俺を捕捉している。

 具体的な効果は分からないものの、いつでも力を発揮できるはずだ。

 いや、もう既に何らかの効果を及ぼしているのかもしれない。

 だから拒否権はなかった。


 本音を言うなら、すぐにでも接触を断ちたい。

 具体的には勇者を殺害するか、それが無理でも関わらないようにしたかった。


 しかし彼女は俺をロックオンしている。

 一向に離れる気配がなく、もはや友人のような態度で接してくる始末だった。


(世界平和がどうとか言っていたが……)


 俺は床に座りながら考える。


 勇者は向かい側に正座した。

 背筋が伸びて妙に姿勢が良い。

 その顔はどこか自慢げであった。


 俺が日本人だから土下座に反応すると思ったのかもしれない。

 残念ながらそこまでノリは良くなかった。


 ため息を洩らした俺は、改めて話題を切り出す。


「世界平和。それがあんたの目的なのか」


「そうなのです。勇者召喚システムは混乱しか生みませんからねぇ。私としても破壊しておきたいのですよ。サメ男さんの目的とも合致してますよね」


 彼女の指摘は正しい。

 俺の目的は勇者召喚に関連するモノの破壊と、元の世界への帰還である。

 現状は前者を優先していた。

 平穏な日常を奪った連中に報復するために行動している。


 確かに世界平和を実現するなら、異世界人を大量に呼び込むシステムは不要だろう。

 それどころか余計な混乱を招くことになる。


 召喚された人間は残らず固有スキルを所持し、強い能力の場合は勇者に足るほどだ。

 そんな集団を戦争の道具にするのだから、世界平和は遠ざかる一方だった。


 目の前の勇者がなぜ平和を望むのか分からない。

 王都壊滅を引き起こした俺とフレンドリーなのも謎だ。


 だから推測に過ぎないが、利害が一致すれば躊躇なく活用する性格なのだろう。

 俺のことも、世界平和を実現するためのピースと思っているに違いない。


 表面上は明るく親しげだが、その本性は白々しい。

 信用できない感じはそこから来ているのだと思う。

 効率主義と称してもいいタイプだった。

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