第50話 サメ術師は覚悟を決める

(一体誰だ!?)


 俺は食事を放り出してレーダー画面を凝視する。

 光点は一つでこちらに接近しつつあった。

 スピードからして徒歩だろう。


(なんてことだ……まさか向こうからやって来るなんて)


 俺は舌打ちをする。

 このサーチ・シャークは、勇者のみに反応するように設定している。

 それ以外の生物に関しては敵対的だろうと表示されない。

 だから近付いてくる光点は間違いなく勇者だ。


 この付近には何もない。

 真っ直ぐに接近している以上、俺に用があるのは確実であった。


(どうする。今すぐに逃げるべきか?)


 焦りを覚えながらも考える。

 こういった事態も想定していたが、実際に起こってしまうと嫌でも緊張感を覚える。


 逃げるのは簡単だ。

 シャドウ・シャークで沈んで移動ができる。

 ただし、相手の能力が不明なうちは迂闊な行動は控えるべきだ。

 もしかすると影に沈む能力が無効化されるかもしれない。

 別に何も不思議なことではなかった。

 勇者とはそういう存在である。


 俺はとりあえず別のサーチ・シャークで探知し直す。

 付近に勇者以外の存在はいなかった。

 相手は単独で仲間も連れていないらしい。


(隠密系のスキルで潜伏している可能性はあるが、考え出すときりがないな)


 楽観視しすぎるのも良くない。

 しかし、ある程度のリスクは承知で動かねばならない場面があった。

 まさに現在がその瞬間だろう。


(ちょうどいい。ここで殺してやる)


 俺は覚悟を決める。

 わざわざ夜間に俺のもとへやってくる勇者なのだ。

 明らかに敵対的である。

 王都壊滅の犯人だと悟って襲いかかってきたのか。

 もしかすると仕留め損ねた勇者の一人かもしれない。


 迂闊に背中を見せるのが危険なのであれば、さっさと倒すに限る。

 ついでに新たな属性をいただいておこう。


 俺はさっそく各種サメを召喚していった。

 まずは金属鎧に似たアーマー・シャークを装着する。

 動きは阻害されるどころか、普段よりも身体が軽いほどだ。

 アーマー・シャークが俺の動きをフォローしてくれているのだろう。


 武器は連射タイプの鮫銃にした。

 腰には小型のチェーンソー・シャークを吊るす。

 最後に小型のブースト・シャークを鎧の内側に入れて全体強化を施した。


 今回は遠距離から不意打ちできる状況ではない。

 近接戦闘に持ち込まれることを見越した装備にしている。

 何がどうなるか分からないから、細心の注意を払って行動しようと思う。


 鮫銃をしっかりと握り締めながら、俺はシェルター・シャークを出た。

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