第49話 サメ術師は不意を突かれる

 その日の夜、俺は平原の只中で移動を終了した。

 朝が訪れるまでに次の標的を狙ってもいいが、思ったより疲れたので休みたかったのだ。

 いくら復讐心があると言っても、その辺りは誤魔化せない。


 俺はこの世界の平均を大きく超えて高レベルだが、身体能力は悲しいほどに貧弱である。

 したがって基礎体力もお粗末だった。

 サメのおかげで移動は楽をしているものの、それでも疲労は蓄積してしまう。

 特化型ステータスの明確な弱点だった。


 まあ、焦ることはない。

 昼間に大臣と勇者を始末している。

 今夜はじっくりと休息を取っても許されるだろう。


 そういうわけで方針を決めた俺は、まずシェルター・シャークを召喚した。

 見た目は巨大な立方体で、申し訳程度にサメの頭部やひれが付いた個体である。


 こいつは防御特化のサメで、体内に人間が暮らせるスペースを持つ。

 単独行動をする俺が、睡眠中でも身の安全を保つための策であった。


 かなり頑丈とのことだったので、試しに他のサメに襲わせてみたところ、どれだけやっても殺害することはできなかった。

 精々、表面に傷が付くだけだった。

 おそらく他の勇者の能力でも破壊は困難だろう。

 サメ本体に殺傷能力がなく、他の属性を付与してもあまり機能しないのが欠点だが、セーフハウスとして使えるのだから申し分ない。


 俺はさっそくシェルター・シャークの中に入る。

 殺風景な個室のようなスペースに寝転がり、空腹を感じたので携帯食を広げた。


 正直、そこまで美味くない。

 ただし村人曰く、栄養価は高いらしい。

 別に不味くはないため、慣れれば苦も無く食べられるようになりそうだった。


 俺は携帯食を齧りながら、ウォーター・シャークが出す水を飲む。

 テレビがあれば観ているところだ。

 残念ながらシェルター・シャークはそこまで有能ではなかった。

 静かな空間で黙々と食事を進めていく。


(サメを焼いて食うか……?)


 俺は隣にいるウォーター・シャークを見て真剣に検討する。


 この世界に来てから肉を食べた記憶がない。

 日本にいた頃のような、味の濃い料理が恋しくなる。

 サメの焼き肉なんて美味しそうだ。

 無限に召喚できるのだから、別に一匹くらい食用にしてもいい気がする。


 そうなると、どのサメにするのがベストだろう。

 何の属性も加えないのが安定だが、アレンジすることで味も良くなるかもしれない。

 焼き肉にするならタレも必要だ。

 どこかでそれっぽい調味料を確保しなければ。


 そんなことを考えていると、横に置いたサーチ・シャークに反応があった。

 見れば背中のレーダー画面に光点が出現している。

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