第47話 サメ術師は追撃を放つ

 発射されたバレット・シャークは、高速で勇者達のもとへと突き進む。

 自動で軌道修正すると、大臣の無防備な首筋に命中した。


(よし)


 俺は小さくガッツポーズを取る。


 その先で大臣が目を見開いていた。

 勇者の肩から転げ落ちると、血を吐いてのたうち回る。


 あれはバレット・シャークが体内を食い散らかしているのだ。

 想像を絶する苦痛だろうが、即死しない程度に留められている。

 俺なら絶対に味わいたくない。


 私欲に走って異世界人を巻き込んだ罪は重い。

 無論、俺は他人を裁けるような立場ではなかった。

 だからこれは私怨だ。

 個人的な報復に過ぎない。

 粘着質なサメ使いによって、大臣は死に至るのだ。


 勇者達は大臣の惨状に驚愕し、周囲のサメを蹴散らしながら治療しようとしていた。

 ポーションらしき物や回復魔術を使っているが、それらは無駄な努力である。


 傷自体はそれらの手段で治癒できるものの、バレット・シャークを取り除かなければ根本的な解決にならない。

 治ったところをまた噛み千切られるだけだ。

 勇者達の救命行為は、大臣の苦痛が長引く要因となっていた。

 まったくの逆効果と言えよう。


(よそ見している暇はないぞ)


 大臣の処置に気を取られる勇者達を狙って、俺は鮫銃を発砲する。


 バレット・シャークの直撃により、ネクロマンサーの勇者の側頭部が破裂した。

 その身体が地面に倒れ込んで痙攣する。

 白目を剥いて脳漿を撒き散らしており、治療が無意味なのは明らかだった。


(かなりの高威力だな。さすがサメだ)


 実際の弾丸と謙遜ないパワーである。

 発砲時の反動の小ささと、優秀な追尾性能を加味すると、文句ないほどの高性能だろう。


 ネクロマンサーの勇者はもう死んでいる。

 ただ、万が一にもアンデッドになって蘇られても困るので、周囲のサメに丸呑みさせておいた。


 その途端、操られていたアンデッドのサメが崩れて肉塊となる。

 ネクロマンサーの能力が切れた証拠であった。

 もう復活する兆しは見られない。


 残された二人の勇者は、焦りと恐怖を浮かべていた。

 狙撃されていることに気付いたのだろう。

 悶絶する大臣を諦めて、その場から逃げ出そうとしている。


「駄目だ。ここで全滅させてやる」


 俺は鮫銃を構えながら呟く。

 そして、彼らの周囲に追加で百体のボム・シャークを召喚した。

 さらに外周にガン・シャークの壁を配置して、いつでも射撃できるようにする。

 じわじわと迫るサメの群れを前に、二人の勇者は絶望していた。


 彼らはサメのラインナップを一部ながらも把握し、対処方法を知ってしまった。

 だから逃がすわけにはいかない。

 保有する固有スキルもここで献上してもらわなくては。

 まだまだサメを強化しなくてはいけないのだ。


 二人分の断末魔と爆発音の連鎖を聞きながら、俺は鮫銃のスコープから目を離した。

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