第46話 サメ術師は暗殺を強行する

(ネクロマンサーまでいるのか)


 俺は思わず険しい顔になる。


 死霊魔術というジャンルがあるのは知っている。

 ああやって死体をアンデッドに仕立て上げてて操る術だ。

 勇者の扱うそれは、固有スキルと言う名の上位互換だろう。


 解体されたサメの残骸は勝手に繋がって活動していた。

 自爆したボム・シャーク同様に復活し、生き残りのサメ達を喰い殺していく。


 せっかく召喚したというのに潰し合いとなっていた。

 そこに勇者達が追撃し、リスクを負うことなくサメを蹴散らしていく。


 ほぼ互角だった戦況は徐々に劣勢となっていた。

 使役されるサメのアンデッドは二十匹ほどにまで膨らんでいる。

 捨て駒みたいな扱いながらしっかりと戦力になっている。

 それらを連れて勇者達は村を離れていく。


(思ったより粘ってくるか。絶妙なコンビネーションだ)


 即席とは思えない連携だ。

 以前から同じメンバーで活動していたのだと思う。

 手慣れた動きを見るに、元から大臣の側近なのかもしれない。

 本来はあそこにサポート役の杖持ち勇者が加わるのだから、尚更に一筋縄ではいかないグループだ。


 しかし、諦めるつもりはない。

 標的の大臣はここで始末する。

 どれだけ邪魔されようと断念する気はなかった。


(まだ策は残っている)


 向こうは俺の居場所に気付いていない。

 だからやりたい放題だった。


 俺は彼らの周囲に追加のサメを数十匹ほど召喚する。

 これでも結構な脅威だろうが、連中を倒す決定打にはなり得ない。

 きっとすぐさま全滅させられる。


 今回に関してはそれでいい。

 たった数秒でも時間を稼いでくれれば完璧だった。


(絶え間なく続くワンパターン戦法。これなら乗り切れると考えるはずだ)


 勇者達の油断を僅かにでも誘って、注意を引かせるのが目的である。

 これだけやれば嫌でも印象付けられたはずだ。


 俺は鮫銃の照準を大臣に合わせる。

 大臣は顔面蒼白で勇者達の戦いを見守っていた。

 戦闘用のスキルを持っていないためか、自分では何もできない。

 すべてが勇者頼りとなっている。


「しっかり当たってくれよ……」


 俺はよく狙ってから静かに引き金を絞る。

 銃声は存外に小さかった。

 乾いた破裂音が響いて、突き飛ばすような衝撃が鮫銃から肩に伝播する。


 そうして高速で放たれたのは、青黒い物体だった。

 スローモーションで注目すれば、凶暴な牙とつぶらな瞳が確認できるだろう。

 あと背びれや尾びれも確認できるに違いない。


 バレット・シャーク――すなわちサメの弾丸であった。

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