第44話 サメ術師は勇者の能力を目にする

 サメが家屋を呑み込もうとしていた。

 王都を喰らった巨大ザメに比べれば蟻みたいなものだが、一軒家を丸呑みできるサイズだ。

 それが地面からいきなり出現しているのだから十分な脅威である。


 外にいた護衛達は驚いていた。

 彼らは戸惑いながらもサメに攻撃を始める。

 サメは傷付いていくがかなりタフだ。

 そう簡単には死なない。

 魔法陣から出てきて家屋を齧り取ろうとしていた。


 その時、勇者の一人が何事かを叫び、掲げられた大剣が変形する。

 大剣は赤いオーラを放つチェーンソーになった。


(何だあれは!?)


 俺が驚愕する間に、その勇者はチェーンソーをサメに叩き付ける。

 高速回転する刃が顎を切り裂いて捕食を妨害し始めた。

 相当な切れ味らしく、あっけなく体表を切断すると、血飛沫を浴びながら解体していく。


(チェーンソーの固有スキルか)


 よく分からないが、たぶんそういうことだろう。


 そばに立つ杖持ちの勇者は何かに集中している。

 杖が赤い光を発していた。

 チェーンソーの赤いオーラは、魔術によるサポートなのだろう。

 よく見れば騎士達の武器にも同じオーラが付与されている。


 騎士と勇者は顔を出したサメを攻撃する。

 既に動揺から復帰しており、迎撃に専念していた。

 室内の様子は探れないが、すぐにでも外に脱出するだろう。


(やはり勇者は面倒だな)


 血みどろのサメを見ながら、俺は小さく舌打ちを洩らす。


 あのチェーンソーは妙に攻撃力が高い。

 魔術の強化を受けているにしても、妨害効果が大きすぎる。

 家屋を呑もうとするサメはほとんど一方的に斬られていた。

 端からどんどん切り裂かれて肉片が飛び散っている。

 固有スキルの武器だから特別製なのだろう。


 まあ、これくらいの反撃は予想していた。

 だから焦ることはない。

 大臣抹殺のアイデアはいくつも用意している。

 対策されたのなら、別のアプローチから仕掛けるまでだ。


 俺は夢中でサメを攻撃する護衛達の背後に複数の魔法陣を生み出した。

 そこから現れたのは、一見すると普通のサメだ。

 ただし、開かれた口からは銃口が覗いている。


 護衛達は背後の異変に気付いていない。

 俺はほくそ笑みながらスコープ越しに命令を下す。


「皆殺しだ。撃ちまくれ」


 自律行動型のガン・シャークの群れが、護衛達に向けた一斉射撃を開始した。

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