第43話 サメ術師は観察する

(もう少し調査しないとな)


 俺はスコープ越しに村の様子を観察する。

 レーダーの光点も頼りに、くれぐれも間違えがないように何度とチェックした。


 このミスが命取りになりかねない。

 焦る状況でもないので、丹念に確認作業を繰り返した。

 結果、大臣の居場所をほぼ完璧に特定する。


(へぇ、あそこか)


 大臣は村の中央部の一軒家にいるようだった。

 周りと比べても大きめの家屋だ。

 周囲を騎士が巡回しており、別装備の勇者らしき人間も二人ほどいる。

 残りの護衛は室内にいるらしかった。


 魔術の結界が張られている様子はない。

 おそらくは護衛の中に使い手がいなかったのだと思う。


(それでも十分に厳重だな)


 正面から突っ込むのは論外だ。

 ゴリ押しできるかもしれないが、あまりに危険である。

 近接特化の勇者にあっさり殺されてしまうかもしれない。


 能力的な都合を考慮すると、やはり安全地帯から一方的に攻撃するのがベストだった。

 存在すら気付かれないのが最高だが、さすがにそこまでの高望みはしない。

 俺はサメ使いであって暗殺者ではないのだから。


 それこそアサシン・シャークを特攻させる手があるものの、いきなり飛ばすと勇者に察知される気がする。

 見つかれば簡単に処理されるだろう。

 どちらかと言うと、混乱に乗じた追撃として使いたいところだった。


(なんとか狙撃できないか……?)


 大臣の潜伏する建物に注目するも、肝心の姿が見えない。

 窓には残らず板が打ち付けられており、外から場所を悟られないようになっていた。

 襲撃を警戒しているのだろう。


(あいつらは、どんな能力を持っているんだ?)


 奇襲のネックは勇者だ。

 顔だけでは能力の判別も付かない。


 外を警備する二人はどちらも女で、装備はそれぞれ大剣と杖だ。

 近接タイプと魔術タイプだろう。

 なかなかにバランスが良い。


(室内の勇者がまったく読めないな)


 俺の予想では感知系や防御系である。

 現在の大臣は何より身を守りたいはずだ。

 だから、それに応じた能力持ちをそばに置いている気がする。


 それにしても、あんな悪党に従っている勇者達に疑問を持ってしまう。

 一部の者は弱みを握られていたり、隷属魔術で私物化されていると資料には書いてあった。

 きっとどうしようもない理由があるのだろう。


 そもそもこんな非常事態だ。

 たとえ大臣みたいな人間であっても、誰かに付き従いたいものかもしれない。


 元凶である俺は、それに関して何も言うつもりはない。

 ただ邪魔するのなら始末するまでだ。


 俺の心は既に殺害の覚悟を固めていた。

 自分でも驚くほどに冷徹な状態へと切り替わっている。


(顔を出してくれれば一発なんだが……)


 鮫銃を構えながらしばらく監視する。

 大臣は一向に姿を見せない。

 引きこもっているようだ。

 あれはもう出てくるつもりがないと思う。


 辛抱強く待つのもいいが、早く他の標的のもとへ行かねばならない。

 悪いがさっさと顔を見せてもらおうと思う。


 狙撃が本命だが、まずは奇襲から始める。

 手順はシンプルだ。

 王都壊滅と同じ要領でいこうと思う。


 俺はスコープ越しに大臣のいる家屋を注視する。

 刹那、敷地の真下に魔法陣が出現した。

 そこから突き上げるようにしてサメの頭部がせり出してくる。

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