第39話 サメ術師は次の段階へと進む

 太陽が真上まで昇った頃、俺は山の頂上で起床する。

 ベッド代わりにしていたサメに礼を言いつつ、立ち上がって伸びをした。


 今日も良い天気だった。

 雲もなく空は澄み渡っている。

 おかげで遥か彼方の景色まで望むことができる。


 王都を呑み込んだ巨大ザメは消失していた。

 その痕跡は途方もないサイズのクレーターのみとなっている。


 寝る前に俺が術を解除しておいたのだ。

 放っておくと勇者に倒されて、大幅な強化を促す恐れがある。


 現在、王国の勇者とは敵対関係だ。

 彼らをパワーアップさせるような真似は避けるべきだろう。


 ちなみに俺自身がサメを殺しても経験値は貰えなかった。

 やはり術者だからだと思う。

 これでレベルアップできるなら、ほぼ無限に強くなれたのだが仕方ない。

 ズルはできないということだ。


 俺はサメに乗って山を下りていく。


(まだ終わりじゃない。勇者召喚の関係者は生き延びているだろう)


 城内で手に入れた資料により、勇者召喚に関わる人物は把握している。

 たとえば国王や、その娘である姫だ。

 最初に俺達に説明をしたあの少女である。


 あれから会っておらず、生死の判別は付かない。

 しかし、おそらく生き延びているだろう。

 なんとなくそんな気がした。


 ゲームみたいなシステムか敷かれたこの世界において、王族は有利な環境を持つ。

 権力を用いれば良い装備を手に入れたり、安全に経験値稼ぎができる。

 護衛に勇者を使っているだろうし、巨大ザメの餌食にならないように動いたはずだ。


 俺が対峙した三人の勇者も無事だろう。

 あれから属性が増えた感じがしないので間違いない。

 サメに喰われていれば、対応する付与可能な属性が増えているはずだった。


 それについてはあまり気にしていない。

 無傷で戦線離脱できたし、王都も破壊できたのだから結果は上々であった。

 欲張りすぎると碌なことにならない。


(他の収穫も大きかったしな)


 俺は微笑みながらステータスを確認する。

 現在のレベル113。

 ついに三桁に突入した。

 能力値は相変わらず貧弱だが、SAMEだけが異様な伸びを見せている。


(もう少しバランスが良いと嬉しいんだけどな……)


 俺は静かに悩む。

 これだけ高レベルなのに、身体能力は一般人と同程度のままだ。

 仮に他の勇者がレベル100を突破したら超人になっているだろう。


 俺の場合、あまりにサメ関連に特化し過ぎている。

 心強いのは確かだが、肉体面が弱いままなのは不安であった。


(一応、最低限の対策はしてあるが……)


 俺は自分の身体を見下ろす。


 大抵の勇者を殺せるだけの能力を手に入れた。

 しかし、相性が悪い奴だって中にはいるはずだ。

 手遅れになった段階で太刀打ちできないと分かっても困る。

 もう少し策を練っておくべきだろう。

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