第37話 サメ術師は脅迫する

 つんざくような轟音と共に、双剣使いの男が上空に打ち上がった。

 燃え盛るその身体は回転しながら地面に激突する。

 僅かに身じろぎするも、立ち上がることはできない。

 そこに他のサメが群がって、各々が噛み千切って餌にした。


 サメに乗る俺は逃げるのをやめてその様子を眺める。


(なんとか成功したな)


 さっきの爆発はボム・シャークによるものであった。

 外見が俺のイメージに左右されることを利用して、地雷型のサメを生み出して地面に潜伏させたのだ。

 ちょうど双剣使いが踏むように誘導したが、見事にハマってくれた。


 巻き添えになりたくないので威力を調整していたのに、戦士タイプの勇者でも即死するパワーがあるらしい。

 これは良い検証になったと言えよう。


 サメという変わり種を主軸にしている俺だが、分類上は典型的な魔術師タイプだ。

 接近されると弱い。

 だから様々な対策を打っている。


 サメに乗っての緊急回避やボム・シャークの地雷もその一部だった。

 他にもいくつか考案しているので、馬鹿正直に突っ込んでくる敵には負けない自信がある。


(とは言え、問題はここからだな)


 俺は残る三人の勇者を一瞥する。


 彼らは双剣使いの死にショックを受けている。

 立て続けに二人も犠牲になったのに、未だに俺はノーダメージだ。

 警戒しているのは明らかであった。


 もっとも、軽率に動けないのは俺も同じだ。


(同時に仕掛けられると不味い……か?)


 可能な限りの対策を打っているが、それも完全無欠ではない。

 異世界召喚を経て、俺は反則的なサメ能力を習得したものの、彼らも同じく特殊能力を持っている。

 突破される恐れは十分にあった。


 ここまでは一人ずつ始末できた。

 しかし、向こうも俺の能力をなんとなく把握しているだろう。

 過信はできない。


(ここは戦闘を避ける方向で進めるべきだな)


 睨み合いの末、俺はそう結論付けた。

 皆殺しにするつもりだったが、冷静になって考えればそれはさすがに危険すぎる。


 既に巨大ザメの口はほとんど閉じていた。

 王都の大部分が齧り取られて、体内に呑まれようとしている。

 結局、誰にも止められずに目的は達成されていた。


 ここは欲を掻かない方がいい。

 逃げ出しているであろう勇者召喚の関係者を探さねばならない。

 一旦撤退して態勢を整えたいところだった。


 向こうだって命は惜しいはずだ。

 立場的に俺を逃がすわけにはいかないが、仲間が死んだのを目撃して躊躇いが生まれている。

 そこを利用させてもらおうと思う。


 俺はサメに乗ったまま勇者達に話しかける。


「これで分かったか? 辺り一帯に地雷を仕掛けてある。お前らのすぐそばにもだ」


「なっ……!」


 三人の勇者は驚いて硬直する。

 実際はそこまでたくさんの地雷を仕掛けたわけではない。

 だが、あちこちにサメが待機しているのは事実だ。

 双剣使いは地雷が決め手となった死んだのだから、残された者達は迂闊に動けないだろう。

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