第35話 サメ術師は迎撃する

「……そんな嘘を、信じたんだな」


 俺は怒りを必死に堪えながら言う。

 対する勇者達は怪訝そうにしていた。

 こちらの発言の意味が分からないのだろう。


「嘘? 一体何を言っているのですか」


「俺が復讐のために王都を襲ったと言っても、どうせ信じないだろう?」


 問い返してみるも、彼らが帯びるのは敵意ばかりだ。

 困惑や躊躇いはない。

 きっと王都を壊滅させた犯人の戯れ言だと思っているのだろう。

 自分達が、騙されている側だと、考えもしていない。


「もういい。話し合いは終わりだ」


 俺は早々に諦める。

 弁解したところで意味がない。

 たとえ証拠を出したところで奴らは信じないだろう。

 互いの立場は不変だ。

 どうすることもできないのは、彼らの態度を見れば明らかであった。


「あのサメを操っているのはあなたですね。今すぐに止めてください!」


「従うわけないだろう。これはクソッタレな国に対する報復なんだ」


「無関係な人々が巻き込まれています!」


「それがどうした。もう覚悟はしているよ」


 俺は自嘲気味に笑う。

 大量殺人犯の汚名を背負ってでも、ここはやらねばならないと決意した。

 今更、薄っぺらい説得を受けたところで方針を曲げる気はない。

 むしろますますやる気が出てきたくらいであった。


 そんな中、勇者のうち一人が前に進み出た。

 金髪を流した長身の男は、双剣を手に睨み付けてくる。


「黙って聞いてりゃ、図に乗りやがって。お前はクズの殺人者だ。それだけ分かれば十分だ。ここで殺す」


「――最高の褒め言葉だな。お前は最後まで残してやる」


「ハッ、言ってろよ」


 男は怒り心頭といった様子で眉を歪める。

 今にも飛び出してきそうだが、ギリギリのところで我慢している。

 迂闊な突進は危険だと理性が働きかけているのだろう。


 とは言え、その理性も破綻寸前だ。

 俺の挑発で感情が爆発しそうになっている。

 何かきっかけがあれば、男はこちらに向かってくるに違いない。


 その後ろの男の背後で不審な動きがあった。

 赤髪の小柄な女が、こっそりと来た道を戻ろうとしている。

 たぶん応援でも呼んでくるつもりなのだろう。


 女の気配が薄れて、姿が認識しづらくなっていく。

 おそらく何らかのスキルを使いやがった。

 たぶん隠密系統の能力だろう。

 こちらの意識から外れようとしている。


「逃がすかよ」


 俺は歯を食い縛って集中し、走り出した女のそばに魔法陣を生成する。

 そこから飛び出したのは中型のサメだった。

 サメは女の片脚に喰らい付くと、そのまま地面に引きずり込んで消えてしまった。

 きっかり三秒後、ぷしゅっと音を立てて血が噴き上がる。

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