第33話 サメ術師は迎撃を決心する

(落ち着け。ここを切り抜けるだけだ。何も難しいことじゃない)


 自分に言い聞かせながら戦闘の準備を進めていく。

 辺り一面に魔法陣を生み出すと、そこからサメが顔を出した。

 ただし、それ以上は動かさずにキープする。

 サメ達は俺の考えに従って待機する。


 魔法陣の光が辺りを照らしており、向こうから丸見えになっているだろう。

 しかしそれでいい。

 サメの存在が良いプレッシャーになる。


 地面に埋めて見えないよう工夫した魔法陣等、いくつかの罠も張ってある。

 さらには追加で召喚することも可能だ。

 無数のサメが勇者達を待ち構えている。


 俺の魔力はステータス上では微量だが、異様に高いSAMEの補正がある。

 そのため消耗が抑えられていた。

 サメ関連での消費は魔力の回復も早い。

 巨大ザメを召喚した分は既に回復が済んでいた。


(問題は相手の能力だな)


 駆け付ける勇者達を睨みながら俺は考える。

 資料は読み込んでいるものの、完璧に記憶したわけではない。

 かなりの人数が記載されており、個人の特定は難しかった。


 こちらに近づく勇者は五人だ。

 身を隠していない限り人数に間違いないだろう。


 果たしてあの中の誰が勇者なのか。

 少なくとも一人は確実だ。

 俺の居場所を特定した奴である。

 通常の感知魔術を欺けるアサシン・シャークの隠密能力を破ったのだから、おそらく固有スキルの効果だろう。


 他の四人は不明だった。

 一般人ばかりなら楽だが、油断すべきではない。

 楽観的な考えは捨てて、常に最悪の可能性を想定した方がいい。


(俺も覚悟を決めないとな……)


 大きく息を吐いて、アサシン・シャークの口内から這い出る。

 俺は堂々と姿を現して彼らを待ち構えた。


 どうせ居場所は割れているのだ。

 間抜けな姿で待機することもない。

 動きやすい体勢の方がマシだろう。


 命の危機を感じる。

 湧いてくる恐怖を意思の力でねじ伏せる。

 先ほどは矢の奇襲にビビったがもう大丈夫だ。


 レイラックという英雄を殺したことで、知らず知らずのうちに気を抜いていたのだ。

 あんな失敗は繰り返さない。

 既に対策は張っている。

 どこから攻撃されても対応可能であった。


 俺は手のひらに魔法陣を生み出して、小型のサメを掴んで引き出す。

 喉奥から金属の金属の両刃が伸びた。

 長さは一メートルほどで、立派な剣となっている。


 ソード・シャークはこういった使い方が可能なのだ。

 即席の武器としては上等だろう。

 特性の鮫剣を手にした俺は、迫る勇者達を見据える。

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