第30話 サメ術師は英雄の死を見届ける

 下半身のみとなったレイラックが鮮血を噴きながらよろめく。

 そのまま落下して俺の位置からは見えなくなった。


 彼を喰い殺したアサシン・シャークはすぐさま他の勇者にやられた。

 しかし、その貢献具合を考えると、拍手喝采で褒め称えるべきだろう。

 十分な働きであった。


(最大のネックを排除できたな)


 俺は小さくガッツポーズをする。


 レイラックは王都にいる勇者の中でも特に厄介だった。

 禁書庫で得た資料を読んだので知っている。

 彼は紛れもなくトップクラスの勇者である。


 異世界人は基本的にチート能力ばかりだが、その性能は一点に尖り気味だ。

 徒党を組むことで真価を発揮するタイプが多い。

 レイラックみたいに単独で強い方が珍しいのだ。


 俺なんかもまさに連携すべきパターンであった。

 サメの召喚と使役にリソースを振っているため、術者である俺は貧弱極まりない。

 一般人と比べてもまだ劣っているほどだ。


 ここまでの戦闘でレベル89に達したが、ほとんどのステータスの伸びは誤差の範囲であった。

 SAMEの数値だけが際限なく上昇しており、もう少しで10000になりそうだ。

 明らかにバグっている気がするも、これこそが俺のチート能力だろう。


 自らのパワーアップを犠牲にして、サメ関連のスキルを超絶的に強化する。

 だからレイラックのような英雄を殺すことができた。

 今回みたいなシチュエーションだからこそ勝てたが、こちらの居場所が判明していたらその時点で負けが確定していた。

 遠隔で爆破されて終わりだったろう。


 そういう事情を考えると、能力的な相性を活かせずに死んだレイラックは不運としか言いようがない。

 まあ、殺し合いにルールなんて存在しない。

 卑怯だろうが何だろうが生き残ればそれが正義なのだ。


(あとは巨大ザメで王都を潰すだけか)


 レイラックが死んだ時点で、国の重鎮は逃走を決意したはずだ。

 彼が為す術もなく殺された以上、同格の勇者を派遣しても二の舞になる恐れがある。


 そもそも巨大ザメを食い止められる能力が稀少だった。

 無駄な犠牲を増やすより、護衛として起用する方が堅実だろう。


 何より彼らは、この巨大ザメの召喚者を警戒している。

 あれは自然現象ではない。

 人為的な攻撃であるのは明白だった。

 元凶が俺であることまで掴んでいるかは不明だが、誰かが意図的に王都を壊滅させようとしているのは理解していると思う。


 国の重鎮連中は、自らが標的ではないかと恐怖しているのではないか。

 だからこそ強力なスキルを持つ勇者を護衛として置きたいはずだ。

 もはや壊滅すると分かり切った王都を守らせるくらいなら、自分の身を守る方が大切に違いなかった。


(念のために迎撃役の勇者は殺しておくか)


 俺はスコープ・シャークで空を眺めながら考える。


 残る勇者は燃えるサメをちょうど全滅させたところだった。

 ただし数はだいぶ減っており、頼みの綱であるレイラックの死で士気が最低だ。

 彼らが巨大ザメをどうにかできるとは思わないが、速やかに始末しておくべきだろう。

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