第29話 サメ術師は奇襲を打つ

 燃えるサメのシャワーが上空の勇者達に喰らい付こうとする。

 すぐさまレイラックが爆破を浴びせるも、残念ながら効果は薄い。

 少しだけ数が減ったものの、大部分が無事だった。

 燃えるサメはそのまま容赦なく襲いかかる。


 まず剣士風の少年が首筋を噛み千切られた。

 その斬撃は見事で、目にも留まらぬ速度でサメを切断していた。

 不自然なハイスピードなので、たぶん加速系統のスキルを持っているのだろう。


 しかし、それでも限界があった。

 次第に追いつかなくなって疲労し、ほんの僅かな瞬間を突かれて首を噛まれた。

 そのまま傷口を晒して崩れ落ちる。


 次に水の防御を張ろうとした女勇者が落下した。

 顔面にサメが群がって燃え上がっている。

 ここからでは聞こえないが、悲鳴を上げていることだろう。

 水の防御で消火されたサメは途端に力を失うも、すぐさま別のサメから炎を貰って復活する。


 他にも次々と勇者が死んでいく。

 燃えるサメは不規則に飛び回しながら攻撃を繰り返した。

 勇者の反撃でどんどん数を減らしていくが、向こうの被害の方が明らかに甚大だった。


 レイラックは他の勇者に指示をしながら迎撃に集中している。

 仲間への巻き添えを恐れて、思い切った爆破が使えないようだった。


 彼の得意とする間合いは単独での遠距離戦だ。

 近付かれると今回のような不利を強いられてしまう。

 いずれも禁書庫の資料から得た情報であった。


(初撃で上手くサメを倒せなかったのが響いてきたな)


 リトル・ファイアー・シャークは元から燃えている。

 炎は当然ながら、爆発攻撃にもある程度の耐性が持っている。

 他の個体なら問答無用で吹っ飛ばされていたところだ。


 これなら多少は長持ちする。

 小型で狙いが付けづらく、数が多いのも良かっただろう。


(まあ、レイラック対策で属性を選んだからな)


 俺は満足しながら戦況を眺める。

 スコープ・シャークの尾びれを捻ると、ズームの倍率が変更された。

 そのおかげでピンポイントでそれぞれの状態を確かめられる。


 追加の勇者が上空にやってくる気配はない。

 別の場所で避難指示をしているのか。

 或いはサメの召喚した術者――すなわち俺の捜索をしているのかもしれない。


 状況は最悪だった。

 だから元凶である俺を捕縛して、巨大ザメを消滅させるのが一番手っ取り早い。


(まあ、見つかる前に終わらせてやるよ)


 俺は王都内に新たなサメを召喚する。

 ちょうどいい属性が増えていたので、さっそく使ってみることにしたのだ。


 呼び出したそのサメは、スピード・ウイング・アサシン・シャークである。

 剣士風の少年から得た高速移動のサメだ。

 おまけに翼と暗殺能力まで保有するハイスペックぶりであった。


 そのサメは跳ね上がるようにして上空へ躍り出た。

 流れるようにレイラックの背後に迫る。

 レイラックは仲間の守りと指示に夢中で気付いていない。

 刹那、サメは無防備な上半身を丸齧りにしてしまった。

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