第28話 サメ術師は反撃を放つ

(歴戦の勇者か。厄介だな)


 俺は微かな苛立ちを覚える。


 せっかく召喚した巨大ザメが劣勢になりつつあった。

 さらに死体による質量爆弾も無効化されそうだ。


 思い通りに進みかけた計画を、たった一人の勇者が台無しにしやがった。

 悪態の一つでも吐きたくなる。

 俺が言えたことではないかもしれないが、さすがにチートすぎやしないだろうか。


 しかし、何も焦ることはない。

 ベストな展開から少し変わってしまっただけだ。

 これくらいのトラブルは想定していた。


 王国は召喚した勇者の力で成り立っている。

 当然ながら保有する戦力の質は最高峰だろう。


 王都の危機ともなれば、何らかのカウンターが飛んでくると考えていた。

 まさかいきなり最強格の勇者が来るとは思わなかったが、姿を見せてくれたのはありがたい。

 おかげで反撃を打つことができる。


(やってやるよ。サメの恐ろしさを見せてやる)


 相手は格上のチート野郎だ。

 他にもたくさんの勇者が駆け付けている。

 全員が一騎当千に等しい力を持っており、真正面から立ち向かえば何の抵抗もできずに即死する。


 だが、それに臆する俺ではない。

 既にいくつもの対策が脳裏を巡っていた。

 すべてを冷静に実行できる自信がある。


 胸に手を当ててみる。

 心音のリズムは一定で、自室で寛いでいる時かのように落ち着いていた。


「はは、小心者だと思っていたんだがな……」


 何の取り柄も無い地味な男。

 それが学生時代から変わらない自己評価だった。


 きっと死ぬまでそのままだったはずが、極限状態で才能が開花したらしい。

 まさか自分に殺人の適性があるとは思わなかった。

 異世界に来たからこそ判明した部分だろう。


(いや、この適性があったから召喚されたのか?)


 よく分からない。

 無駄な考えはここまでにしよう。


 俺はその場でスキルを発動する。


 同時に傷だらけの巨大ザメの口内が発光した。

 ここからでは見えないが、大量の魔法陣が出現したはずだ。

 その数はちょうど三百。

 必死に戦う勇者達の目にはしっかりと映っているはずだった。


「さあ、残らず喰っちまえ」


 俺は呟いて魔法陣を起動する。


 そこから地上に降り注ぐのは大量の小型のサメだ。

 一つの魔法陣から十匹出てくるように細工したので、計三千匹のシャワーである。

 ちなみに小型化と炎と翼の属性を付与したため、名称としてはリトル・ファイアー・ウイング・シャークとなるだろう。


 炎を纏う空飛ぶサメ達は、縦横無尽に勇者達へと落下していった。

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