第27話 サメ術師は勇者の底力を見る

 考えを巡らせていると、いきなり巨大ザメの口内が爆発した。

 隙間から黒煙が漏れ出してくる。


 口内で連鎖して炎が噴き上がった。

 巨大ザメの歯茎が爆破されて、牙が折れて地面に刺さる。

 出血が濁流のように外壁周辺を押し流していった。


 一連のダメージにより、巨大ザメの落下スピードが僅かに緩まる。

 閉じようとする口が止まり、血を滴らせながら硬直していた。


 そこへ追撃するように様々な攻撃が叩き込まれていく。

 勇者達が勢いづいているようだった。


(くそ、何をやっているんだ……)


 俺は小さく舌打ちし、スコープ・シャークで何が起こったのかを確認する。


 王都の上空に立つ勇者のうち、先ほどまでいなかった人物を発見する。

 よく目立つのですぐに分かった。


 屈強な体格で、光り輝く赤い髪の男がいる。

 男は周りの勇者に何か叫びながら、両手を頭上に掲げていた。


 掲げた手の先で巨大ザメの口内が連続で爆発する。

 またもや牙の一部が吹き飛んだ。

 少量の出血が地面を濡らす。

 そのダメージが巨大ザメの動きを的確に封じ込めていた。


 一方、爆破で抉れた傷は治癒に手こずっている。

 表面が焼け焦げたままだ。

 負荷が蓄積されたせいで、再生速度が追いついていないようだった。


 その隙に他の勇者も好き勝手に攻撃して、巨大ザメの丸呑みを妨害している。

 一つのダメージは微細だが、数が揃えば無視できない規模となる。

 一方的だった戦況に暗雲が立ち込めようとしていた。


(不味いな。あの勇者が原因だ)


 禁書庫で手に入れた資料で見た。

 あの赤髪の男は第七期の勇者のレイラックだ。

 近衛騎士の隊長を務めており、強力な固有スキル【爆破魔術】の使い手である。


 王国に所属する勇者の中でもレイラックはトップクラスの攻撃力を持っていた。

 これまでの功績から伯爵の地位も得ており、まさに成功者を体現した男であった。


 たぶん王都の危機に際して出撃を命じられたのだろう。

 そして実力に恥じない活躍を見せている。


 まさか巨大ザメを押し留めるほどとは思わなかった。

 想像以上のパワーだ。

 歴戦の勇者は固有スキルが鍛え上げられているから、俺とは年季が違うのだろう。


(しかもあいつの能力は爆破だけじゃない)


 俺は資料の情報を思い出す。


 レイラックは【亜空間収納】のスキルも所持していた。

 生物を除く物体を不可視のスペースに保管する能力で、収納サイズに制限がない反則スキルである。

 所持品の持ち運びに便利なのはもちろん、戦闘にも転用が可能だった。


 この時点でレイラックの思惑が分かった。

 あいつは巨大ザメを倒し、死体を収納して被害を抑えるつもりだ。

 絶対に阻止しなければならない。

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