第26話 サメ術師は王都を破壊していく

 上空を陣取る勇者達が次々に攻撃していく。

 ダメージを受けた巨大ザメは、血の雨を降らせながら下降する。

 サイズがサイズなので死ぬ気配はない。

 多少の傷は自然治癒されていく。


 ついには鼻先が王都の外で地面に接触し、牙が外壁や一部の建造物を削り落とす。

 口を閉じれば王都を齧り取る体勢にまで至った。

 こうなればほとんどリーチだ。

 あとは待っているだけですべてが破壊されるだろう。


 避難した住民の動揺はいよいよ最高潮に達していた。

 誰もが王都から逃げ出して右往左往している。

 為す術が無いのだから仕方のない反応である。

 俺も積極的に攻撃するつもりはないから、さっさとどこかにいってほしい。


 やがて巨大ザメが口を閉じ始めた。

 牙が外壁を貫いて崩し、建造物を次々と倒壊させていく。

 立派な門がひしゃげて潰れて、逃げ遅れた兵士や騎士が下敷きになって消えた。


 その断末魔を聞きながら、俺は変わらず観察する。

 俺のせいで大勢の人が死んだ。

 逃げ遅れた住民も犠牲になっていることだろう。

 復讐とは無関係な何の罪もない人々である。


 それでも俺の動揺は皆無だった。

 きっとミノタウロスと対峙したあの時に心が壊れてしまったのだろう。

 死にたくないという想いがすべてを差し置いている。


 もう、元の自分には戻れない。

 だけど今は好都合だった。

 非情にならないと、この先はやっていけないだろう。


(魔術師の攻撃が止まっている?)


 王都を監視しながら俺は首を傾げる。

 何人かの勇者はまだ奮闘しているが、地上からのサポートがない。

 敵わないと悟って、魔術師が避難してしまったのか。


 きっと国の重鎮も逃亡している頃だろう。

 どうあがいても巨大ザメは王都を壊滅させる。

 勇者のスキルによっては防げるかもしれないが、さすがにもう間に合わないはずだ。

 だから命が惜しい連中は、既に脱出しているに違いない。

 それだけの準備はしているだろう。


 もっとも、これは予想の範疇であった。

 城内を偵察した際、隠し通路や脱出用の転移魔法陣を見つけたのだ。

 国の重鎮がそれらを利用して逃げるのは狙い通りである。


(むしろここからが本番だ)


 王都を壊滅させた後、俺は逃亡した連中を始末する。

 捜索手段も既に確保していた。

 逃亡中は守りも手薄だろうから、王城に籠っているところを襲撃するより楽だろう。

 勇者召喚に関わる人間は、誰一人として見逃すつもりがなかった。

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