第25話 サメ術師は王都を蹂躙する

 召喚したサメは魔法陣から落下するように登場する。

 ゆっくりとしたスピードに見えるが、サイズ感から錯覚しているだけだろう。

 実際はかなりの速度だと思う。


 俺はウイング・シャークに指示をして、王都の敷地から離れた。

 あの位置だと巻き添えになってしまう。

 なるべく距離を取っておいた方がいい。


 その間にラージ・ヒュージ・ビッグ・グランデ・タイタン・シャークは……いや、長すぎるから巨大ザメと呼ぼう。

 巨大ザメは口を全開にして王都に喰らい付こうとしていた。

 綺麗に生え揃った牙は何でも噛み砕けるはずだ。


 馬鹿げた大きさのサメは端まで見えないほどだった。

 きっと王都を丸呑みできるに違いない。

 俺が付与した属性は、巨大化させるものばかりだ。

 それらが乗算されているのだから、チートと呼ぶに相応しいパワーがある。

 こうして考えると、俺も勇者に値する能力者だったのだろう。


(まあ今更な話だけどな)


 近くの草原に着陸した俺は、手のひらサイズのサメを召喚して掴む。

 そのサメは円柱状で、中身が筒のように空洞になっていた。

 ただし、頭部はしっかりと動いているので生き物だ。

 こいつは望遠鏡のような機能を持つスコープ・シャークである。


 俺はスコープ・シャークを使って王都を眺める。

 地上から大量のビームが放たれて巨大ザメの口内を焼くところだった。

 たぶん魔術師が放った攻撃だろう。

 迎撃しようとしてるのは明らかであった。


 しかし巨大ザメの動きは止まらない。

 迸った鮮血が豪雨のように街を襲っており、むしろ逆効果に近かった。

 真下にいた人間は溺れ死んだのではないか。


 巨大ザメの耐久力は尋常でない。

 俺が丹精を込めて召喚しているのだから当然だ。

 半端な攻撃は効かないどころか、一度受けたダメージは耐性を習得する。

 瞬く間に傷が治る巨大ザメを見つつ、俺は笑みを深めた。


 魔術師の奮闘を眺めていると、王都の門からたくさんの人々が飛び出してきた。

 騒然とする彼らはパニックになって散り散りとなる。

 頭上の巨大ザメを見て避難を選択した住民だろう。


 俺はそんな彼らを遠巻きに見る。

 攻撃を仕掛けようとは思わないが、積極的に助けるつもりもない。


 別に彼らは標的ではなく、ただ巻き込まれた被害者だ。

 彼らの生活を脅かすことには申し訳なく思うが、だからと言って遠慮するつもりはなかった。

 他人を気遣っていては復讐なんてできない。


 俺は逃げ惑う人々を静かに傍観する。


「ん?」


 街中から何かが射出された。

 スコープ・シャークで確認するとそれは人間だった。

 数人が巨大ザメに向かって接近しているのだ。

 彼らは剣や魔術、様々な能力で攻撃し始める。


 どうやらあれは勇者らしい。

 一般の兵士では歯が立たないと判断して、最終兵器として動員されたようだ。


 俺と同期らしき勇者もいれば、それより前――つまり先輩勇者もいる。

 彼らは何らかの手段で飛し、間合いを詰めて巨大ザメを殺そうとしていた。


(しかし、あの図体が死体になったらどうするんだ?)


 巨大ザメは未だに全長が見えない。

 今も魔法陣から着々と滑り出している。

 仮に勇者達が殺害に成功したとしても、死体は王都に落下してしまう。

 最悪の質量兵器として近隣一帯を吹き飛ばすだろう。


(まあ、奮闘を見せてもらうか)


 俺は観察に徹することにした。

 まだいくつか策は残してある。

 計画が失敗することはまずない。


 そもそも王都壊滅ですべてが解決するわけでもなかった。

 この次の段階も想定しているのだ。

 色々な可能性を考えて、戦いを見て学ぶのは重要だろう。


 アサシン・シャークを召喚した俺は、その中に入って巨大ザメと勇者の戦いを見守り始めた。

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