第24話 サメ術師は報復を始める

 その日の夜。

 俺は王都上空にいた。

 高度はおよそ数百メートル。

 白い翼の生えたウイング・シャークにしがみ付いて滞空している。


 翼の動きはゆっくりだが落下することはない。

 明らかに物理法則から逸脱した挙動である。

 この翼は魔物由来なので、何らかの不思議パワーが働いているのだろう。


(さすがに怖いな……)


 俺は一瞬だけ地上に視線をやる。

 ここから望む王都は随分と小さく見えた。

 あまりの高さに身体が震えてしまう。


 俺はしっかりとウイング・シャークにしがみ付く。

 ここで離せばもう終わりだ。

 もれなく死のスカイダイビングを敢行することになる。


 俺は恐怖を押し殺しながら王都を再び見下ろした。

 全体的な位置関係を確かめつつ、使うべき能力をチェックした。


 俺は意味も無くこんな場所に来たわけじゃない。

 王国への復讐を果たすためだ。


 報復に関しては色々な方法を模索してきた。

 村にいる時に様々な候補を挙げたが、王城を探索した際の収穫で方法が確定した。

 盗んできた物品によってサメの属性が大幅に増えて、強力な能力を持つサメを召喚できるようになったのである。

 だからド派手な方法で報復を仕掛けることにした。


 俺は夜空を見上げる。

 赤と青の月がそれぞれ浮かんでいる。

 何とも違和感のある光景で、ここが異世界であると強く意識させられる。

 ただ、慣れれば普通に美しかった。


「よし、この辺りでいいか」


 俺はウイング・シャークを微調整で移動させる。

 そこは王都でも端にあたる位置だ。

 ちょうど真下に外壁がある境界線である。

 きっと今も門番がいるだろうが、遥か上空を飛ぶ俺には気付いていないはずだ。


 俺は月の浮かぶ夜空を眺めながらスキルを使用する。

 複数の巨大な魔物の部位や身体を大きくする禁術、道具等から獲得した属性を惜しみなく発動していった。

 途端に全身から力が抜けていく。

 きっと大量の魔力を消費して倦怠感を覚えているのだろう。


 それでも俺は歯を食いしばり、サメの召喚に集中した。

 ここで諦めるわけにはいかない。


 ほどなくして上空に途方もないサイズの魔法陣が出現する。

 王都全域を囲えるだけの大きさだ。

 そこからゆっくりと現れたのは超巨大なサメの頭。

 山すら丸呑みできそうな口が開いていく。


 ――ラージ・ヒュージ・ビッグ・グランデ・タイタン・シャークの誕生だった。

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