第23話 サメ術師は計画する

 禁書庫をほとんど空にした俺は、アサシン・シャドウ・シャークを使って引き続き移動する。

 あれだけの資料が一気に紛失したのだから、いずれ誰かが気付くだろう。

 さっさと行動して、安全なうちに脱出すべきだ。


 城内を探索するうちに、兵士や使用人の他にも俺と同じ異世界人を見かけた。

 彼らは戦いの鍛練しているか、熱心に勉強していた。

 何かの作戦会議に参加してる者もいた。


 さっそく勇者として王国軍の支えになっているらしい。

 まだ不安そうな者もいれば、自信満々といった様子の者もいる。

 心境的な差があるのだろう。


 もっとも、彼らはステータスの検査で勇者に相応しいと判断されている。

 能力的には申し分ない。

 だから国から手厚い待遇を受けているのだ。


(それに比べて俺は……)


 城内の倉庫で、俺は黒い感情を募らせる。


 訳も分からないうちに怪物に殺されかけて、人殺しまで強いられた。

 そして自分を追い出した城まで戻って泥棒紛いのことを繰り返す。


 少し前まで平凡なサラリーマンだったのだ。

 サメ映画を観るのが趣味のつまらない男だったが、その平和な日常に満足していた。

 だから現状を振り返ると何とも言えない気持ちになる。


 かと言って、復讐の覚悟が揺らぐことはない。

 世界の理不尽さを恨みたくなっただけだ。


(悪いのはこの国の連中だ。まとめてぶっ潰してやる)


 俺は内なる復讐心を焚き付けて、目的を改めて意識する。

 大好きだった日常を奪った者達に報いを与えなければ。

 それだけを考えていればいいのだ。


 城内を探索したことで、それなりの収穫があった。

 まず魔術効果のある道具や武器が手に入った。

 それと誰もこちらに気付かないことが判明した。


 アサシン・シャドウ・シャークの隠密能力は、どうやらずば抜けて高いらしい。

 奇怪なビジュアルで城内を徘徊しているのに違和感すら持たれない。

 視界に入っても気付かれないので、認識されないような効果もあるようだ。


 一部の察しの良い者は俺の接近で不審がったが、こちらの存在を見つけるまでには至らなかった。

 気のせいだと判断して通り過ぎるだけだった。

 たぶん索敵系のスキルを有しているのだろうが、アサシン・シャドウ・シャークのステルス性能を看破できるほどではなかったらしい。


(こんなことなら城の外で衛兵にビビることもなかったな)


 俺は倉庫に置かれた果実を齧りながら考える。

 まあ、実際に試さないと分からないことばかりなのだ。

 最初は慎重に進めるくらいでちょうどいい。


 こうしてサメの能力を確認できたのは大きかった。

 計画を次の段階へ進めることができる。


(情報を手に入れて、サメの有用性もチェックできた。次はいよいよ報復の時間だ)


 あまり先延ばしにするものでもない。

 後腐れがないよう派手に壊し尽くしてやる。


 俺は勇者失格となった身だが、誰が悪党であるかは理解しているつもりだった。

 今夜のうちに実行しようと思う。

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