第22話 サメ術師は過去を調べる

 俺は禁書庫の隔離エリアに侵入する。

 構造は他と同じで、本棚にぎっしりと資料が詰め込まれていた。

 心なしか古めかしい書物が多いような気がする。


 禁書庫の中でさらに結界を張って保管されているのだ。

 内容の重要度が高いか、稀少なものだろう。

 或いはどちらもか。

 とにかくチェックして損は無い。


 幸いにも【翻訳】のおかげで内容の把握は可能だった。

 どれだけ難解な言語だろうと不自由なく読める。

 何気に便利なスキルであった。


 大量の資料を前に吟味していると、シーフ・アサシン・シャークが接近してきた。

 役目を終えたので放っておいていたが、その鼻先にはなぜか羊皮紙の束が乗っている。

 一辺を紐を通して結ばれた資料だ。


 どうやら本棚から抜き取ったらしい。

 それを俺に捧げるような姿勢でキープしている。


「何だこれ?」


 俺は資料を受け取り、めくりながら流し読みする。

 しばらくして内容を理解して驚いた。


 それは過去の勇者の資料だった。

 召喚された者達の能力や当時の所属について記載されている。

 最も古いものだと、三十年以上も前だった。


 資料をめくる俺は静かな怒りを抱く。


「こんなことを三十年も……」


 安定した召喚ができるようになったのがその時期のようだ。

 それより前から実験的に勇者召喚が行われており、回数を重ねるごとに召喚人数が増えている。

 俺達を呼び出したのが九回目の集団召喚にあたるらしかった。

 資料内では第九期の勇者と記載されている。


「本当にクソだな。畜生が」


 俺は思わず悪態を吐く。


 王国は戦力欲しさに異世界の人間を拉致していた。

 罪悪感がないどころか、何度も実験を繰り返している。

 資料の中身が正しければ、かなりの数の召喚者が王国軍に所属している。

 同盟国に派遣されている者もいるようだ。


 そして元の世界に戻った者は誰もいない。

 勇者は様々なスキルを習得しているが、帰還用の能力はないのかもしれない。

 王国もその辺りはあまり研究していないそうだ。


 とにかく勇者召喚に特化している。

 何か問題があれば殺せばいいと考えているに違いない。


「……冷静になれ。これで終わりじゃないんだ」


 俺は深呼吸して怒りが沈静化するのを待つ。

 ここで感情的になっても意味がない。

 後で必ず発散するタイミングが来るのだ。

 それまでは我慢する。


 俺はシーフ・アサシン・シャークと共に禁書庫内を探索した。

 すると王国のスキャンダルや表沙汰にできない計画の資料やら命令書、禁術ばかりを記した魔術書等が見つかった。

 たぶんこいつらをばら撒けば大騒ぎになるだろう。


 どれが必要になるか分からないので、収納効果を持つストレージ・シャークに隠密属性を加えて呼び出して口を開かせる。

 そこに集めた物を片っ端から放り込んでいった。

 盗んだことはすぐにバレるだろうが知ったことではない。

 少なくとも俺の仕業だとは分からないだろう。

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