第21話 サメ術師は結界を取り除く

 俺が呼び出したサメだが、元の個体はシーフ・シャークである。

 状況的に必要と判断して隠密能力を追加したが、基本は物を盗むことに特化していた。

 求める物がどこにあるか直感的に察知して、さらに罠や鍵の無効化もできる。

 そういった能力を兼ね備えていた。


 よく言えばトレジャーハンター。

 悪く言うなら泥棒。

 シーフ・シャークとはその名に恥じない性能を有している。


 ゲーム知識が根拠だが、盗賊っぽいジョブはだいたい罠の解除等に長けている。

 だから、こういう場面に適しているのかと思って召喚したのだ。

 正確には手持ちにある他のサメでは解決できなさそうなので、消去法に近かったのだが。


 繊細な作業をサメに求めるのは駄目だということだろうか。

 しかし、俺は今後もサメの可能性を信じ続けたいと思う。


 ちなみにシーフ・シャークは村に滞在していた際に解禁した。

 付近で活動していた盗賊を喰い殺したことで取得したのである。

 村人達からは感謝されたが、俺としてもありがたい限りだった。


「頼んだぞ」


 そっと撫でてやると、シーフ・シャークは結界に接近していく。

 アサシン属性も付与しているため、ほとんど音を立てていなかった。


 そのまま結界を鼻先でつつくと、次の瞬間、勢いよく噛み付いた。

 小さな破裂音が連鎖して、結界が粉々になって消滅する。


「えっ」


 俺は口を開けて呆然とする。

 その間にもシーフ・シャークは次々と噛み付きを実行し、設置された結界を残さず粉砕していった。

 あれだけヤバそうな気配を放っていた結界が薄いガラスのように割れていく。


(思っていたのと違うな……)


 ぽかんと眺めていた俺は、その光景に苦笑する。

 もっと精密な動作で解除してくれるのかと思いきや、サメらしい行動であった。

 やはりサメに繊細さを期待する俺が間違っているのだろうか。

 こうなったら、お淑やかな属性を見つけて付与するしかないな。

 今後の課題としておこう。


 セキュリティーが結界なので本当は魔術師タイプのサメを呼び出せればよかったが、残念ながらまだ解禁されていない。

 若干の妥協からシーフ・シャークを選択したので、かなり豪快な結果となってしまった。


(これは大丈夫なのか……?)


 俺は今更ながら心配になって周りを警戒する。

 これだけ派手に破壊しているのだから見つかっていそうだが、誰も来る気配がない。


(見た目が凄まじいだけで、ちゃんと解除しているのか)


 禁書庫で騒ぎがあれば、真っ先に誰か駆け付けるだろう。

 それなのにいつまで経っても異変は起きない。

 改めて見てみると、肝心の破壊音もかなり控えめだった。


 そのまま一分も経たないうちに、禁書庫内の結界が残らず取り除かれる。

 俺は結局何もやることがなかった。

 シーフ・シャークは意外と優秀だったようだ。

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