第20話 サメ術師は新たな能力を使う

 俺は城内の探索を開始した。

 アサシン・シャドウ・シャークが影から影へと潜って移動していく。

 スムーズな動きで少しも音を立てない。

 気配も非常に希薄だった。


 たまに兵士や使用人のそばを通り過ぎるが、顔を出していても気付かれない。

 暗殺者の特性が上手く作用しているのだろう。

 きっと感知スキルを持った人間もいるのだろうが、こちらの隠形を看破できるほどではないらしい。

 あれだけ警戒していたのが嘘のように順調である。


 とは言え、過信はできない。

 高レベルの人間には見つかってしまう恐れがあった。

 俺と同じ異世界人の中で、索敵に優れた能力持ちがいる可能性だって考えられる。


 今回はあくまでも情報収集がメインだ。

 復讐の実行は後日なので、ここは大胆に動きながらも冷静に進みたい。

 致命的な失敗をすると取り返しが付かないかもしれない。


 多少警戒されるくらいなら構わないが、正体が露呈して捕まってしまうのは最悪だ。

 それだけは絶対に避けたい。

 一応、脱出用の手段もあるものの、切り札はなるべく温存しておくべきだろう。


 城内を各地を転々と移動しているうちに、地下の薄暗い資料室のような場所に辿り着いた。

 入口が厳重に施錠されていたので、床に潜り込んで影を経由して侵入する。


 室内は無数の本棚に占拠されていた。

 さらに一部の区画は何重にも隔離されており、よく見ると光の結界のようなものに囲われている。


 明らかに防犯を意識した設備だ。

 迂闊に触れればすぐにバレるだろうし、何らかの罠で死ぬかもしれない。

 それだけ大切なものを保管しているとも考えられるが……。


(ここは禁書庫か何かか?)


 道中、普通の資料室は見つけた。

 そことは別の部屋だし、これだけ厳重な雰囲気を見るに、一般的な立ち入りは禁止なのだろう。

 城内でも重要度の高い書物や資料を保管しているのではないか。

 地下の見つかりにくい位置にあるのも根拠の一つである。


 俺がアサシン・シャドウ・シャークに確認するも、結界の向こう側へは進めないらしい。

 影の中を移動できる能力でも、無理に進もうとすれば大ダメージを受けることになるそうだ。

 別に言語の意思疎通が取れるわけではないが、なんとなく雰囲気で伝わってきた。

 これも【サメ召喚】の効果なのかもしれない。


 俺は結界の前を陣取って睨み付ける。


(この先に何かあるんだろうな……)


 無性に気になる。

 安全を考えればスルーしてしまうのが良いが、せっかく見つけたのだ。

 こちらが有利になる情報が見つかるかもしれないし、国が秘匿したい事項を知れるのは好都合である。

 後々の交渉材料になるかもしれない。


(ここはあいつに頼むか)


 俺はアサシン・シャドウ・シャークの口内に入ったまま、召喚魔術を発動する。

 そばに魔法陣を展開した。


 表面からせり出してきたのは、茶色っぽい小型のサメだ。

 こいつの名はシーフ・アサシン・シャーク。

 盗賊能力に特化したサメであった。

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