第19話 サメ術師は偵察する

 召喚したサメは俺の命令には絶対服従である。

 どんな指示にも従う。

 たとえ死ぬような命令であってもだ。


 スキルでそういう仕様になっているのだろう。

 詳しいことは何も分からないが、おそらく間違っていないと思う。

 村で何度も検証したので確信していた。


 大好きなサメをぞんざいに扱うのは心が痛む。

 特に使い捨てるような真似はあまりしたくない。


 とは言え、それを躊躇して死ぬようなことは絶対に避けたかった。

 心の甘さで判断を誤るのは、物語でもよくあることだ。

 そういったミスが致命的な展開に繋がる。


 俺は下らない失敗で死にたくない。

 ミノタウロスに殺されそうになったあの瞬間を、もう二度と味わいたくなかった。


「よし、頼むぞ。城内で人のいない場所へ向かってくれ」


 俺が命令すると、アサシン・シャドウ・シャークは自らの影に沈み始めた。

 間もなく視界全域が闇に包まれる。

 もちろん慌てて声を上げるような間抜けなこともしない。


 アサシン・シャドウ・シャークはほとんど無音で突き進んでいく。

 心なしかシャドウ・シャークよりも移動スピードが上がっている気がする。

 移動する感覚も滑らかだ。


 おそらくは暗殺者の属性を加えたことによるボーナスだろう。

 魔力消費が若干多めになってしまうが、複数の属性を合わせた方が強力なサメが出来上がる。

 特に暗殺者と影を操る能力は相性も良いのだろう。


 間もなく浮上する感覚が伝わってきた。

 アサシン・シャドウ・シャークは薄暗い部屋に出現する。


 俺は口内から慎重に見回す。

 窓がない室内は、石造りの壁や天井で構成されていた。

 うっすらと苔が生えており、調度品はほとんど見当たらない。

 ボロボロの机と椅子くらいか。


 鉄格子に仕切られた小部屋がいくつも設けられている。

 まるで牢獄だ。

 というか、牢獄そのものだろう。


 位置関係から推測するに城の地下か。

 罪人を閉じ込めるための場所らしく、現在は無人だった。

 したがって俺達を目撃した者はいない。


(このまま行くか)


 感知系スキルに捕捉されたくないので、アサシン・シャドウ・シャークからは出ない。

 苦しい思いをさせてしまうが、ここは耐えてもらうしかなかった。

 脱出までは存在を悟られたくないのだ。

 さっそく城内を巡って情報を集めていこうと思う。

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