第18話 サメ術師は王城に潜入する

 しばらくして王城付近に到着した。

 このまま真っ直ぐ進めば城内に踏み込むことになるが、当然ながらそれは不可能である。

 警備を担当する兵士が目を光らせているからだ。


 不用意に近付けば、間違いなく警戒されるだろう。

 下手をするといきなり攻撃されるかもしれない。

 兵士達はピリピリとした雰囲気で、近づきすぎるのは良くない。


 とは言え、ここで引き下がれば収穫がないのだ。

 俺は復讐のためにやってきた。

 どういった手段を使うのであれ、ここは潜入して情報を集めておきたい。


 特に勇者召喚に関わっている人間の特定は急務だ。

 城内を探せば、関連書類が見つかるのではないか。

 最悪、誰かを拉致して情報を引き出すことも視野に入れている。


 残忍な方法だが必要なら実行するつもりだった。

 ミノタウロスに襲われたあの瞬間、俺は余計な甘さを捨てた。

 相手が敵なら容赦なく殺せる。

 モラルに欠けた外道行為にだって手を染めてみせよう。

 それくらいの覚悟を持たないと復讐なんてやっていられない。


(正面が駄目なら、それ以外の方法で侵入するか)


 王都に踏み込んだ際と同じ要領だ。


 俺はまずは物陰に移動して、そこで一匹のサメを召喚する。

 今回の個体は濃い灰色だ。

 どこか気配が希薄なサメである。


 こいつはアサシン・シャドウ・シャークと呼んでいる。

 スキルで生み出したオリジナルの個体だ。


 元となっているのはアサシン・シャークで、村にいる時に暗殺技能を持つ悪党を退治したことで解禁された。

 アサシンと名の付く通り、暗殺者みたいな能力に特化している。

 気配を消して行動し、音も無く獲物を喰い殺せる。

 そこにシャドウ・シャークの特性を合体したのが、このアサシン・シャドウ・シャークというわけだ。


 俺の手持ちの中では、最も隠密行動に優れた個体だった。


「ちょっとごめんな」


 俺はアサシン・シャドウ・シャークに口を開かせて、その中に身を滑らせた。

 かなりサイズを大きめにしたので、人間一人なら口内に収めることができる。

 口がギリギリまで閉じられると、牙の隙間から前方が見える形となった。


 俺が口内に入ったことで、アサシン・シャドウ・シャークは少し苦しそうだが我慢してもらう。

 こうすると俺にも隠密効果が適用されるのだ。

 第三者の感知系スキルを誤魔化せる。

 かなり奇抜なビジュアルなのが欠点だが、実用性があるのだから文句は言えないだろう。

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