第16話 サメ術師は王都に侵入する

 魔法陣から出現した、薄い黒色のサメだった。

 心なしか通常の個体より小さめな気がする。

 まあ、サイズに関しては自由自在なのであまり関係ないが。


 とにかく俺が呼び出したのは、シャドウ・シャークというサメである。

 村を訪れて三日目、影を操る魔術師ゴブリンを倒したことで召喚できるようになった。

 不定期に村を襲っていた曲者だったそうで、村人達には随分と感謝された。

 打算で喰い殺した部分も大きいから、ウィンウィンの関係である。


「こいつなら楽に潜入できるな」


 シャドウ・シャークの特性は、その名の通り影を操るというものだった。

 それを活かして王都に侵入してやろうと思う。


 俺が背びれに掴まると、シャドウ・シャークは途端に影へと沈み始めた。

 とぷん、と音を立ててついには視界が真っ暗になる。

 何も見えず何も聞こえない。

 辺りは真の闇で覆い尽くされていた。


 初めてこの能力を使った際は慌てたものだが、今はもう平気だ。

 何度も練習したので慣れている。

 影に沈み込めるシャドウ・シャークは、騎乗した者も一緒に連れて行けるのだ。

 これを利用すると障害物を無視して移動することができる。

 長時間は維持できないものの、王都に入る分には問題ないだろう。


 闇の中でもシャドウ・シャークの五感は問題なく機能していた。

 俺にはまったく分からないが、どこかへ進んでいるようだ。


 数分ほどで病み方浮上する。

 そこは廃屋の中だった。

 俺が考えていた通り、人目に付かない場所まで運んでくれたらしい。

 シャドウ・シャークに限ったことではなく、召喚したサメは俺の意図をよく汲み取ってくれる。

 実に頼りになる相棒達であった。


 シャドウ・シャークを消して廃屋から出た俺は、暗い路地裏を進んでいく。

 まずは城に向かいたかった。

 あそこに復讐すべき相手がいる。


 村人達から話を聞いたのだ。

 この国は独自の召喚魔術を開発しており、数年に一度、異次元から人間を拉致している。

 連れて来られた人間こそが勇者なのだ。


 世界平和という名目を掲げているが、実際は国の戦力強化がメインらしい。

 他国に対する牽制である。

 勇者は都合の良い人間兵器という扱いだった。

 そして俺みたいに落ちこぼれだと判断されたら、悪趣味な娯楽として消費される。

 どこまでもクソッタレな国だった。


(だから俺が叩き潰してやる)


 別に正義を気取るつもりはない。

 この国が勇者を大量に召喚することによるメリットもあるだろうが、それは知ったことではなかった。

 俺は私怨を動機とした独断で復讐を実行する。

 ただそれだけである。


 歩き出した俺は、いつでもスキルを使えるように意識する。

 たぶん誰にも気づかれていないが、念には念を入れておく。

 気配や悪意を感知できるスキルもあるらしいのだ。

 だから完全には身を隠せないだろうが、ちゃんと警戒するべきである。


(城は……あっちだな)


 俺は遥か彼方に見える城を一瞥する。

 まずはどのような状態か確認していく予定だ。

 どうやって報復するかは後で決めようと思う。

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