第15話 サメ術師は準備を整える

「短い間でしたが、お世話になりました」


「気にするでない。こちらも世話になっておる。元気でな」


 頭を下げる俺に、村長は穏やかな口調で応じる。

 見送りに来た村人は他にもおり、誰もが俺との別れを惜しんでくれていた。

 見ず知らずの人間だというのにありがたい限りである。


 俺が村を訪れてから十日ほどが経過した。

 当初は素性を怪しまれたが、槍や剣を提供し、さらにはサメの能力で彼らの手伝いを率先して行ったことで信頼を獲得した。

 僅かな期間で関係性を良好なものに変えたのだ。


 元の世界でも、俺は人当たりは悪くない方だった。

 誇れるほどではないものの、コミュニケーションにはそれなりの自信があった。

 それは異世界でも問題なく発揮された。


 何も語ろうとしない俺を、村人達は受け入れてくれるようになった。

 結局、素性は明かしていない。

 彼らは俺を風変わりな魔物使いと認識している。


 その方がいいだろう。

 あれだけ優しい人達を余計なトラブルに巻き込みたくない。

 何も知るべきではないと思う。


 俺は村人達に見送られて出発する。

 向かう先は今度こそ王都だ。


 村での生活を経て、必要最低限の情報は得た。

 能力もパワーアップしている。

 鍛練の成果を見せてやろうと思う。


 俺は再びサメに乗って移動する。

 革のグローブをはめた手は、しっかりと背びれを掴んでいた。

 さらに全身を覆うタイプのローブを羽織っている。

 口元全体を覆う仮面も着けているので、滅多なことでは正体がバレないだろう。


 ただし【人物鑑定】のスキル持ちは、他人のステータスを視認できる。

 召喚された当初、俺達を検査したあの占い師風の連中が持っていた能力だ。

 それを阻害する能力もあるそうだが、生憎と俺は持ち合わせていない。


 ぶっちゃけ正体が割れたところで大して困ることもないが、なるべく隠れて行動しようと考えている。

 今から実行しようとしているのは、血みどろの復讐だ。

 わざわざ正体を言い広めることもないだろう。

 なるべくひっそりと進めていきたかった。


 そうして移動を続けること数時間。

 遥か前方に王都の門と外壁が見えてきた。

 距離の関係でほとんど見えないが門番がいるはずだ。

 あそこで出入りする者を見張っているのである。


 俺はサメに指示して進路を変更した。

 大きく迂回し、門番達から見られないようなルートで王都に接近する。


(やはり正面から行くべきではないな)


 服装は変えたものの、門番達が【人物鑑定】を所持する可能性があった。

 類似する効果の道具もあるらしい。

 正攻法で入ろうとするのはやめた方がいい。


 脱走した勇者だと判明すれば、即座に大騒ぎとなる。

 隠密行動を心がけるべきだ。


(それならちょうどいいサメがいたな)


 俺は微笑みながらサメを停止させて、そばに魔法陣を生み出す。

 そうして侵入に適した個体を呼び出した。

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