第14話 サメ術師は計画を練る

 数時間後。

 砦を後にした俺は、サメに乗って移動していた。

 背びれに掴まって地上を突き進んでいく。


 あれだけ獰猛だったサメだが、俺に対しては従順だった。

 いくら触ったり話しかけても害を与えてこない。

 むしろ懐いているようにさえ感じられた。

 なんだか新しいペットを買った気分だった。


 握力が怪しくなってきたら停止して休憩し、数分後には出発する。

 その繰り返しで王都方面に向かっていた。


(やってやるよ。あいつらが先に俺を捨てたんだ。何をしたって構わないだろう)


 腹の底からどす黒い感情が溢れてくる。

 復讐なんてする柄じゃないが、どうしても我慢できなかった。


 俺を召喚した連中に報復するつもりだった。

 本当は逃げて行方を眩ませるべきだろうが、これは生き残るためでもある。


 最初に横暴な振る舞いで貶めてきたのは向こうだ。

 俺の生存を知ったら、いつか報復しに来るかもしれない。

 何も頼れない異世界で常に命を狙われるなんて嫌だ。

 ここで不安要素を断ち切った方がいいだろう。


 向こうは俺を捨て駒にしようとしたのだ。

 何をされても文句は言えないだろう。


 俺はもう人を殺した。

 だから後戻りはできない。


 意外と冷静でいられるのには驚いたが好都合であった。

 自分のことは平凡なサラリーマンかと思っていたが、土壇場でのメンタルは強いのかもしれない。

 こんな状況でなければ、少しは自己肯定感を得られたというのに。

 嫌な発見だった。


 日暮れが近付いてきた頃、右方に小さな村が見えてきた。

 俺は移動に使っていたサメを消すと、徒歩でその村に近付いていく。


 一刻も早く王都に戻りたいが、まず準備しなければいけない。

 いつまでも騎士が帰還しないと不審がられるだろうが、このまま突っ込むのは無謀すぎる。

 服装だって元の世界のものだし、まず門番に止められるはずだ。


 今のうちにサメの能力も検証を進めておきたい。

 新たな属性を付与できるようにしておくべきだろう。


 俺にはこのスキルしかないのだ。

 戦力アップは急務である。


「おっと、忘れていた」


 村に向かう途中、俺は召喚魔術を発動する。

 呼び出したのはスピア・シャークとソード・シャークだ。


 それぞれの持つ槍と剣をそれぞれ引っ張ってみる。

 どういう構造なのか、簡単に外すことができた。

 戦いの時はかなり頑丈そうに見えたのに。


 そうして俺は合計十本の武器を用意した。

 これを村で売る予定だった。

 品質は不明だが、それなりの価格になるのではないか。


 まずは資金調達のための策を打っておきたい。

 この世界について何も知らないので、最低限の知識は身に付けたかった。

 何をするにしても金は必要だろう。

 この槍と剣を当面の資金源にしたいと思う。

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