第11話 サメ術師は捕食者となる

「お、おい嘘だろう」


「どうなっているんだ。何だあの魔物は!?」


「慌てるな! とにかくあいつを始末するぞ」


 騎士達が怒鳴り合っている。

 仲間の犠牲で混乱を来たしているらしい。


 それは当然だ。

 まさか死ぬとは思わなかったのだと思う。


 彼らは王城のエリートだ。

 能力を得たばかりの素人に負けるはずがない。

 ましてや俺は落ちこぼれだった。

 ミノタウロスを倒せたことも、彼らの中では偶然と思われていても不思議ではなかった。


 そのうち騎士の一人が激昂し、持っていた剣を掲げた。

 そこに炎を纏わせて駆け出してくる。


「くそったれがあああぁぁッ!」


 これには他の騎士も驚愕した。

 一人が制止しようと叫ぶ。


「おい待て! まずは連携して――」


「相手はただの素人だろうがッ! 使役できる魔物も一体だ! 何も問題ねぇよ!」


「……俺達も行くぞ! ダドリーに続け!」


 結局、四人の騎士は一斉に襲いかかってきた。

 一人を見捨ててしまうより、このまま強引に仕掛けるのが得策だと判断したのだろう。


(真正面から向かってくるか。手数で押し切るつもりだな)


 俺にとっては最も面倒な戦法である。

 各個撃破できれば安全だったが、そのように誘導できるようなテクニックもない。

 逃げ出したところで追いつかれるのは目に見えていた。

 つまり、立ち向かうしかない。


 俺は騎士達の進路にノーマルなサメを召喚した。

 しかし、炎剣の騎士が凄まじい勢いで両断されてしまう。

 燃えたサメは砕け散って光の粒となった。


 かなりの威力であるのは一目で分かった。

 もしミノタウロス・シャークだったとしても同じ結果になっていた気がする。

 タネが暴かれている状態だと、サメも大した脅威にはならないようだ。


「邪魔だッ!」


 騎士達は勢いを落とさずに接近してくる。

 このまま何もしなければ、一瞬で間合いを詰められて殺されてしまう。


 しかも彼らはサメの攻撃方法を既に知っていた。

 魔法陣から飛び出しての噛み付きと、ミノタウロス・シャークの角。

 この二点にさえ気を付ければ死なないと理解している。


(馬鹿正直にやっても負けるか)


 俺は両手を前方にかざす。

 騎士達の進路に四つの魔法陣が生み出された。

 そこからサメの頭部がせり出してくる。


 炎剣の騎士は、鼻を鳴らして嘲笑う。


「ハッ、数を増やしても無駄――」


 その言葉を遮るようにサメ達が動き出した。

 ただし、さっきみたいに飛び出して喰らい付くのではない。

 口が大きく開かれると、喉奥から高速で何かが伸びる。


「お、うぇ……?」


 炎剣の騎士が間の抜けた声を洩らして止まる。

 彼の胴体や手足を四本の槍が正確に貫いていた。


 それらは無骨な槍だ。

 槍は当然のようにサメの口内から伸びている。


 俺は炎剣の騎士に向けて告げる。


「スピア・シャークだ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る