第10話 サメ術師は真価を発揮する

 ミノタウロス・シャークが頭を振って槍を跳ね除ける。

 さらに大きく口を開いて騎士を齧ろうとした。

 サメの捕食の前では頑丈な鎧すら意味を為さず、騎士自身の防御力がいくら高かろうと、容赦なく噛み砕いてみせるだろう。


「チッ、クソが!」


 槍使いの騎士が舌打ちし、左手で短剣を構えた。

 それをミノタウロス・シャークの片目に叩き込む。


 手首の動きで片目が抉られる。

 かなりの力を込めたのか、短剣は柄と刃の境目までしっかりと埋まっていた。

 赤い粘液が滲み出している。


 ところがミノタウロス・シャークは怯まない。

 短剣の一撃では致命傷に至らなかったらしい。

 乱暴に頭部を振り回すと、短剣を持つ騎士の左腕に喰らいついた。

 ギロチンのような勢いで牙が噛み合わさり、真っ赤な血が迸る。


「ぐ、おあおあああっ!?」


 騎士が悲鳴を上げて、左腕を引っ張る。

 腕は付け根から先が消失していた。

 残っているのは、潰れた金属板にへばり付いた肉片くらいだ。

 他は残らず喰らわれてしまったらしい。


「てめぇ……ッ」


 騎士が泣きそうな顔で俺を睨む。

 そして、槍を持って俺に攻撃しようと踏み出した。


 術者を倒すのが手っ取り早いと考えたのか。

 いや、左腕を食われた怒りかもしれない。

 とにかく俺へとターゲットを切り替えたのだった。


 俺には戦闘技能はない。

 だから騎士の槍を見切れるはずもない。

 一気にレベルアップしたが、身体能力はほとんど上がっておらず、刺突を受ければあっけなく殺されるだろう。


 だが、その未来はありえない。

 俺には頼もしい相棒がいるからだ。

 騎士の好きなようにはさせない。


 片目から短剣を生やしたミノタウロス・シャークが、騎士の背後から襲いかかった。

 突き出された角が鎧の脇腹を貫通する。

 ちょうど串刺しにしていた。


「ゴボァっ」


 浮かび上がった騎士が吐血した。

 必死に抵抗しようと槍を振り回すも、何の効果もない。


 やがてミノタウロス・シャークが地面に頭部をぶつけて、弾みで角から騎士が外れる。

 うつ伏せに倒れた騎士は瀕死だった。

 片腕がなく、胴体に大穴が開いている。


 他の騎士は呆然として助けには来ない。

 あまりの光景に動けないらしい。


 その間にミノタウロス・シャークが圧し掛かるように喰らい付く。

 湿った断末魔を最期に、騎士の姿が消える。

 地面に残されたのは一人分の血だまりだけだった。

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