第8話 サメ術師は蹂躙の兆しを見せる

「俺が、あんたらに、従うと思うか。こんな仕打ちを受けたっていうのに……」


「何。貴様、どういうつもりだ」


「それはこっちのセリフだ、クソ野郎。命を弄びやがって」


 俺が口汚く罵ると、騎士達がにわかに殺気立った。

 少なからず歓迎するような雰囲気から一変し、空気が急速に張り詰めていく。


 奴らはどうしようもない外道だが、同時に戦いのプロだ。

 あの城で騎士をやっているような連中である。

 魔物はもちろん、人間との殺し合いにも慣れているのだろう。


 少なくとも俺を斬ることに躊躇いが無いのは確かだった。

 きっと瞬きの間に殺されてしまうのではないか。

 ステータスもきっと強力なのだろう。


(怯むな。俺のスキルならやれるはずだ)


 息を呑みつつも、奥歯を食い縛って恐怖を押し殺す。

 弱気になっては駄目だ。

 精神力で打ち勝たねばならない。

 そうしないと、本当に死んでしまう。


 俺はもう無力な人間ではなかった。

 サメを召喚できるようになったのだ。

 それでミノタウロスまで殺せるようになった。

 騎士だって問題なく倒せるはずだ。そうだろう。


 ミノタウロスを殺した時、複数の情報が頭に流れ込んできた。

 それらはスキルの具体的な使い方や特徴だ。

 サメ召喚に関するいくつかのルールを俺は把握していた。


 スキルの扱いについては自由自在と言ってもいい。

 ステータス的に可能な範囲なら存分に力を発揮できる。

 それが俺の自信を裏付けており、同時に心の支えとなっていた。

 だから不安になることはないのだ。

 俺の能力なら、彼らを、確実に殺せる。


 騎士の一人が槍を構えながら鼻を鳴らした。

 明らかに俺を見下した態度である。


「まさか貴様、我々に歯向かうつもりか? 調子に乗るのも大概にすることだな。いくら異界の勇者とは言え、我々は王国の精鋭だ。能力を得たばかりの小僧には負けぬ」


「黙れ。俺はもう、やると決めたんだ。ああ、やってやる!」


 俺は叫んで応じる。

 語気には自然と怒りが滲んだ。


 それは騎士達に対するものだけではない。

 この理不尽な世界に対する感情だった。


 どうして俺はこんな窮地に追いやられたのか。

 自室でサメ映画を鑑賞していただけだというのに。

 サラリーマンとしての仕事はつまらなかったが、こんな異世界よりは遥かにマシだったろう。


 早く戻してくれ。

 こんな最低な人生は嫌だ。

 あの退屈で最高だった日常を返してくれ。


 叶わない願いだと知りながらも、心の奥底で懇願してしまった。

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