第3話 サメ術師は塔に招かれる

「足を止めるな! 誰か休んでいいと言ったッ!」


 騎士の怒声が響き渡る。

 逆らえば殴られるので、俺は黙々と足を動かした。

 さっきはぬかるみで派手に転んだ。

 だから足元の状態に気を付けながら進んでいく。


 周りには、俺の他にも十数人の者達がいた。

 ステータスの検査で弾かれた人間である。

 詳細は聞いていないが、たぶん勇者を名乗るには能力が不足していたのだろう。

 育成する価値もないと切り捨てられたのだ。

 この俺のように。


(理不尽な話だよなぁ……)


 現在、俺達は森の中を移動中だった。

 城を出て、街を抜けてからその外へ出て、草原の向こうにあった森林に踏み込んだ。


 行き先を訊いても教えてもらえなかった。

 目的も不明である。

 役立たずの俺達は、大人しく従うしかなかった。

 苦言を呈した男は半死半生になるまで殴られていた。


 木々の隙間から見える空は暗い。

 時計がないので正確な時間は分からないが、ここまで来るのに半日以上はかかっていた。


 疲労は限界に達している。

 腹も減っているし、喉も渇いている。


 見張りである数人の騎士は少しも息を切らしていない。

 あれだけの重装備なら俺達よりも疲れそうだというのに、その動きに淀みはなかった。

 鍛え方が違うのもあるだろうが、ステータスの能力値やレベル、スキルの差が大きいのではないか。

 他人のステータスは視認できないものの、あながち間違いではないと思う。


「間もなく到着だ。余計な発言をするな」


 騎士の発言からおよそ二分後、森の只中に開けた場所が見えた。

 そこに半壊した塔がそびえ立っていた。

 表面に苔が生えており、一部が崩れている。

 辛うじて建築物としての体を保っているという具合だった。


 騎士の一人が槍で塔を指しながら命令してくる。


「入れ」


「あの、これから何が」


「いいから入れ! 二度も言わせるな」


 凄まじい剣幕で怒鳴られた。

 そのまま粘ることもできず、俺達は続々と塔の内部へと入る。

 入り口の木製扉は施錠されておらず、簡単に入ることができた。


 塔の内部は吹き抜けで、天井はかなり高い。

 途中階は存在せず、後から無理やりぶち抜いたような痕跡があった。


「今から貴様らには魔物と戦ってもらう。生き延びた者のみ勇者になれる。底力を見せてみろ。以上だ」


 塔の外から騎士の声がした。

 直後に空気が切り替わる感覚が走る。


 反射的に扉に触れるが、びくともしない。

 崩れた壁の隙間からうっすらとガラスのような壁が覗いていた。

 きっと塔全体が覆われているのだろう。


(閉じ込められたのか)


 俺達は困惑し、どうしたものかと右往左往する。

 魔物と戦うとのことだが、肝心の姿が見えなかった。

 どこか隠れられるようなスペースもない。


 ごとん、と何かが作動する音がした。

 床の中央部がスライドして穴ができる。

 そこに乗っていた数人が慌てて端に退避した。


 床の中央部に直径三メートルくらいの穴ができた。

 その奥から石の擦れるような音がする。

 どこか荒々しい息遣いも。

 やがて穴の内部から怪物の姿が現れた。

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