第12話
私の記事はインターネットに掲載された。夢ソーシャル会社を影から支える重要な人物。柴田も自身のアカウントを活用し、宣伝した。その見出しでPV数を稼ぐ。上司の評価も高かった。ビジネス方面の記事では中々の伸びを見せる。手柄としては十分な反応だった。
柴田は私の成果物を気に入る。特別に今日も会社に呼ばれた。なんでも、私に見せたいものがあるの言うのだ。
私は受付で入社用のカードを受け取る。彼のオフィスまで歩く。すると、1人の部下がエレベーターの近くで苗木を持ってたっていた。彼は無表情で物に徹している。唖然と人の家具に立ち止まっていたら、肩を叩かれる。
「彼は遅刻です」
「こんにちは武林さん」
「今日は来ていただきありがとうございます」
武林と対面するのはバーベキュー以来だ。あれから暴露記事のクオリティをあげる作業のやり取りをしている。
「柴田が何を考えているのか分かりますか?」
「私には分かりません。でも、城島さんの記事をたいそう褒めてました。研修の時みたいな豪華な食事でも用意してるんじゃないですか?」
柴田は人を敬う時は食事に誘うようだ。営業の人から聞いた美味しい店などを熟知しているらしい。
案内されるままに会議室へ通される。扉を開けると、柴田と隣に知らない男性がいた。
「どうぞ入ってください。隣の彼は弁護士です」
「初めまして」
彼と名刺交換する。夢ソーシャル会社の専属弁護士だ。
弁護士は私の名刺を翻した。
「貴方が城島さんですか。いい記事でしたね」
「ありがとうございます。それで今回はどう言った意見なんですか?」
私は向かいに座る。隣には武林がいて、手帳を開いていた。時計は昼の14時だ。机に手を置くと、ベタつくところがあった。手の甲をあげると、黒い汚れが染み付いている。私はスーツの太ももに擦り付けた。
「城島さん。私の会社が掲示板で誹謗中傷うけていたじゃないですか」
「それが発端で私が動きましたね」
「まあ、元社員の人間の犯行だったわけです。彼女がどうあれ、やったことはダメですよね?」
時計の針を気にしていた。誰かと待ち合わせがあるのか、珍しく落ち着きのない様子だ。
「でも、貴方がバーベキューで話したこと覚えてます?」
「罪の意識は、ありますかって話ですよね」
罪の意識をつい聞いてしまった。私は彼に敵意があると見抜かれてしまったのか。ちらりと武林に目線を送る。彼も動揺しているのか唾を飲んだ。
「そうです。いや、櫻井との思い出を振り返ってみたわけです。そしたら、寝るまえに、彼女と揉めたことを気づいたわけです。私は彼女の上司なのに、職場に馴染める環境を作ってあげられなかった。それは教育係でもある私の責任です」
そこで私は考えました。彼は指を天に指す。
「武林と考えました。彼女のことを許そう」
「良いんですか?」
「ただ、簡単に許すのは違います。それだと筋が通らない」
弁護士が自分のメガネを所定の位置まで戻す。金具が外れているようで、幅が拡がってしまっている。
「その通りです。弁護士の私が出しゃばることではないかもですが、彼女に付けられたマイナスイメージはでかく、未だに掲示板で書かれています」
「お仕置ですよ。城島さん」
武林は私に意見する。先程は何も知らないと言っていたのに、柴田と口裏を合わせていた。何が始まるのか想像がつかない。
「櫻井に素手で便器を洗ってもらう。会社に奉仕する姿勢を見せれば屈服したとみなして許してやる。それが罰だ」
私は立ち上がった。目の下に熱した棒を当てられたような痛みが走っている。立ちくらみしたままで、言葉を繋げた。
「ちょっと待ってください!」
「わかってる! 反省しなかったら、皆を集めて、その前で股間に花火ぶつけてもらう」
「何言ってるんですか!」
「彼女から足を突っ込んできた。なら、私たちのルールに従って貰う。郷に入っては郷に従えだ」
「既に彼女は到着します。弁護士の私から連絡済です。彼女がもし抵抗するなら裁判で公的に確定した支払いを永遠としてもらいます」
彼らの中には人間が居ない。自分の所属を傷つけられたという膨らんだプライド。誰にも関与させないという傲慢さが出ていた。
「どうかしてる」
「何言ってるんですか。働くってこういうことですよ。舐められたら終わりなんです。城島さんも数日で経験してきたでしょう」
コイツ潰してやる。
私の中で黒色のどすぐろい怒りが止まらないままだ。彼の臓器を空気に晒して永遠に喋らないようにしてやりたい。
そんな中、扉が叩かれる。
「ダメだ。入ってくるな」
「私が開けます」
武林が椅子をもどし、扉を開ける。彼の影にすっぽり隠れる。足元はハイヒールを履いていて、櫻井だろうか。
「櫻井か?」
「ええ、彼女です」
武林は後ずさりした。私は怪訝に思い、背中に追いつこうとする。
「柴田ァ!」
身体が硬直した。その叫び声で人を殺めてしまえるような勢いだ。武林は扉側に避ける。入ってきたのは、櫻井だった。彼女の手元にはカッターナイフが握られている。
「ふぇ?!」と、柴田が椅子から転がり落ちる。弁護士は凶器を把握したら、柴田の後ろまで全速力で走った。
「柴田死ね!」
まるで映画を見ているような非現実感があった。私が観客席で作品を視聴しているような距離感。現実感の欠如した事件の発生だ。
柴田は倒れ込んだまま起き上がれない。腰を抜かして、椅子に絡め取られている。
櫻井は跳躍し、両手で刃物を握りしめていた。遠くからでもわかるほど、手が赤い。
「いてぇーーー!!!!!!!!!」
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