第6話
あれから数日経つ。新入社員の研修は終わった。人事部は適性を判断し、各部署に割り振りする。
柴田の元に付いたのは、下田と光秀が来た。彼は柴田の近いデスクを受け取る。光秀は彼に説教されてから大人しくしていた。研修の時みたいに声をあげない。淡々と怒られないように仕事をこなしていた。と言いつつも、初めてのことばかりなので、何度か失敗しているようだ。2人の教育係は、武林が担当している。彼は柴田のような叱咤を行わない。ただ命令し、間違えれば修正箇所を教える。まるで機械のような正確さだった。そんな彼でも手を焼いているのが、下田だ。
昨日、下田は社内の備品を破損してしまったらしい。新しく購入するとき、備品係の人に再発防止書という名前の反省文書を作成させられている。この書類は部署外に提出するので、武林の頭を超えて柴田が指導した。
「お前なんでこれを間違えるんだよ!」
私はメモ用紙の手を止める。柴田が下田に怒っていた。柴田は握っていた書類を部下の胸に投げつけた。下田は肩を震わせ手を前に交差している。
「お前怒られてる時の姿勢じゃねえよ!手は横にするべきだろうが! なに前に出してんだよ。それは”休め”だ!」
柴田は怒りに任せて物に当たる癖がある。それが場を支配し、人を恐怖で操る。それはこの場所でも行われていて、私のような部外者がいても構わなかった。メモ帳を閉じ、私は柴田の元へ寄ろうとした。
「城島さん」隣から武林に呼び止められた。
「あれを許してよいのですか?」
「見ていてください」
「しかし」
「いいから、見てくれないですか? 後々困ることになりますよ」
柴田の元で退職した人たちの居所を聞いたところ、了解しましたと来ていた。それを撤回されては困る。私は仕方なく動くのをやめた。
彼は指先まで真っ直ぐ伸ばして、体の横に付けた。
「不手際のギワを間違えて、二重線で修正して印鑑押して、それを繰り返して段々と文字が落ちていくのわけわかんねえよバカ」
「ご、ごめんなさい」
「申し訳ございませんだろうが、お前って日本語もおかしいよ。日本語!」
彼は椅子を引いて、デスクの上に右足を乗せた。上に持ち上げ、パソコンの横に落とす。「日本語がおかしいの!」と叫ぶ。大きな音を当てて、デスクに穴が空く。彼は自身の持ち物を壊していた。
「日本語!!! 日本語!!! 日本もわかんねえのか!」
「わかります」
柴田は椅子と共に後ろへ倒れた。両足を宙に放り出し、ぶらぶらする。「わかってんならこんなミスしねえーーッんだよーー!」
彼の下に付く部下たちは誰も相手にしていない。まるで慣れている様子で触れようとしていなかった。彼の日常的に異常な行動しているようだ。
ただ、怒られている下田は、居た堪れないほど背中を丸めている。
「お前おしおきだ」
彼は起き上がって、椅子を元に戻した。隣のロッカーを開けた。そのロッカーは柴田専門の物置だ。人が1人ほど入れるほどの大きさで、お仕置用の道具が閉まっている。そこから、手を伸ばし何かを抜いた。
「最近はあちぃからこれを当ててやるよ」
ピンク色のドライヤーを取り出した。風の送り口前に『ごう門用』とマジックペンで書かれている。コンセントに指して、風を出した。ドライヤーの周りに関心持たれるほど大きい唸る音が響く。
「ほら、腹を出せ」
「え、は……」
「早く脱げよー!待たせんじゃねえよ。お前が腹出すのにも給料出てんだぞ。腹を出さない損失を会社に返せんのかよ!」
彼はついにワイシャツのボタンに手をかけた。後ろから見えないが、医者が触診するみたいに中の肌着もめくっている。そこに、彼はドライヤーを当てる。
たまらず下田は後退した。
「お前逃げてんじゃねえよ!」
「すみません!」
「ほらもっと謝らねえと覚えねえぞ!」
「すみませんでした!」
「私の不手際で! 申し訳ありませんでした! だろ!」
「私の不手際で申し訳ございませんでした!」
「そうだよ。言えるじゃねえか」
彼はドライヤーを下田に持たせて、お腹に継続して風を送り続けた。その後、彼はデスクのペン立てからマジックペンを摘んで、キャップを外す。
「お前のデコに不手際と書いてやる。俺、筆圧つよいから風呂の時に思い出せるぜ」
彼のペンは下田の額で左から右へ移動する。踊るように書いていることから、柴田は調子づいているのがわかった。
「ありがとうございます!」
「わかってきたじゃねえか下田!」
下田の腹からぎゅるぎゅる音がした。それが合図となって、お仕置から解放される。ドライヤーをデスクの上に置いた。すると、光秀がロッカーに戻す。
柴田は感謝を伝える事もなくパソコンを開けた。何事もなかったようにキーボードを叩く。
「城島さん。私は彼のタブを覗いたことあります。おそらく、今も見ているはずです。何を開いていたと思いますか?」
「まとめサイトですか?」
「えろサイトです」
彼の性癖をメモに記入した。
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