第21話 その桜の木の下には死体が埋まっている 4/4



───西暦2025年(令和7年) 11月 28日 11:00

───青森県 南部



「つまり、この呪いは祓えない、という事ですか…」


政府直属の組織である『怪異対策室』。

その室長を務める山本は落胆の声を上げた。


九十九は呪いの分析結果を山本に伝える。


「この呪いは、生者の命を回収し死者を受肉させ、呪霊として復活させる呪術。復活する呪霊は計7体。かなり強い呪霊が1体、別次元に強い呪霊が5体、そして、七不思議の加護を得た状態の私に匹敵する呪霊が1体…」


「ええっと…、強さの単位が分かりにくいのですが…、かなり強い呪霊が一番弱くて、九十九先生に匹敵する呪霊が一番強いと考えてよろしいですか?」


「ええ。かなり強い呪霊1体と、別次元に強い呪霊5体だけだったら、今すぐにでも封印を解いて殲滅していたのですが…」


「九十九先生と同等の力を持つ呪霊がいたんじゃ、おちおち封印も解けない、と…。うーん…、勝てる見込みのある6体の封印だけを解く事は出来ないのですか?」


「7体の呪霊に対して一つの封印が施されています。それぞれに施されている訳ではないので不可能です」


「…成程、なら、封印を掛け直し、この呪いだけでも抑え込めませんか?」


「私、封印って出来ないんですよねぇ…。というより、やったことがないっていうか…」


「それは何故?」


「だって、封印を解いてぶっころす方が手っ取り早いし、根本的解決になるでしょう?」


「ああ…成程…」


「なので、封印が解けるのを待ち、霊峰学園に誘導し、そこでぶっころす事にします。七不思議の加護を得た状態の私達で」


「生徒を危険に晒す事になるのでは?」


「学園の全生徒、及び学園の従事者を、魔の十三階段に幽閉します。そうすれば、安全に狩りを行う事が出来るでしょう。何より、学園内でなければ、私達に勝機はありません」


「封印が解ける日時は?」


「遅くて十年、早くて明日…。引き続き青森県全域に厳戒令を。学園への導線は私が引いておきます」


「了解しました。上に掛け合ってみます。はあ…、SNSが発達したこの時代に、情報規制を掛けるのは難しいんですけどね…」


「頼みましたよ、山本君。政府のお仕事、大変だろうけど頑張ってね」


山本も、霊峰学園の卒業生だった。

九十九は山本の事を生徒だった頃から知っている。


「九十九先生…。僕、もう中年ですよ? 子供じゃないんだから…」


「うふふ。いつまで経っても、貴方は私の大事な生徒ですよ。…それにしても凄いじゃない、政府のお仕事なんて! 山本君は昔からお利口さんだったものね!」


「お利口というより、僕の世代でマトモなのが僕しかいなかったから…。はぁ…、僕は東京に戻ります。導線の件、宜しくお願いしますよ」


「はい、任されました。山本君、気を付けて帰るのですよ」


山本は会釈し、停めてあった車に乗り込んだ。

九十九は走り去って行く車を見送った後、再び呪いの発生している方角を見た。


(…便宜上、封印と言いましたが、これは封印ではありませんね。何人もが封印を掛けようとした痕跡はあれど、最後まで掛け切れた者は誰もいない。よって、封印は失敗。苦肉の策で物理的に呪いを押し込めようとした。呪いの真上に恐山という巨大な質量の蓋を被せて…)


九十九は顎に手をて、物思いにふける。


(しかし、先の震災でそれがひび割れ、呪いが漏れ出した…。呪いの鮮度から推測して江戸時代の中期…。ここまではいい…。ここまでは……。でも…、これは……)


次第に表情が険しくなる。


(…呪い自体は古くとも…、この復活の呪術は。しかもこれは、だ……。江戸時代に、一体何が……)




───七人の悪霊 復活まで 後 25日

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