第20話 その桜の木の下には死体が埋まっている 3/4


───翌日の朝



ショウヘイは病室のベッドで目が覚めた。



「…あれ? ギプスが無い…」


骨折していた足を固定していたギプスが外されていた。



「…歩ける」


ショウヘイは立ち上がり、ベッドの周りを歩き回る。

もう、痛みもない。



「おう、坊主!」


「…おっさん!」


声の方に振り返ると、そこにはすっかり元気になったおっさんの姿があった。


「坊主がナースコールを押してくれたんだって? ありがとな! 助かったよ!」


「ナースコール…、あっ! おっさん! ピンク色の人影に会わなかったか!?」


「んー? 夢の中で、ババアの看護婦と一緒に俺を介抱してくれたような…?」




「…そのババアって、こんな顔をしてなかったかい?」




病室の扉が開き、看護婦長が入ってきた。



「してたしてたw そんな顔だったよ、夢で見たまんまw」


「あらっ! そこまで元気なら、もう退院しても大丈夫ね!」


「ええっ!? 昨日、死にかけたばっかなのに!?」



イメージと違い、看護婦長は以外と陽気だった。


看護婦長は向き直り、ショウヘイと視線を合わせた。


「ひっ…」


ショウヘイは一瞬強張った。



「ショウヘイ君、おめでとう! 君は今日、退院よ!」


「えっ!? 退院!?」


「そう! ご両親に連絡してあるから、荷物の準備をしておいて! 忘れ物がないようにね!」


「帰れるんだ…、家に…!」


ショウヘイは心の底から喜びが湧き上がるのを感じた。



「なんだよ〜、退院しちゃうのか〜? まだ話してない怪談話があったのによ〜」


「聞きたくねぇ…」


「いいか? この病院にはなぁ…、立派な霊安室があるんだが…」


「聞きたくねぇって!!」



「いいからいいからw ……おほん、で、その霊安室はホコリまみれで使われた形跡がねぇ。何故かって? それはな……」


「………」


おっさんと看護婦長は声を揃えて言った



「「それはこの桜台病院が、創立以来、から!!」」



「ガッハッハ!!」


「うふふふふ!!」



病室におっさんと看護婦長の笑い声が響いた。



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───西暦1983年(昭和58年)4月 2日 8:30

───千葉県 桜台病院



中学生になったショウヘイは、桜台病院の跡地が見渡せる小高い丘にいた。



病院は取り壊され、あの桜の木も消えていた。



あれは夢だったのか、怪奇現象だったのか。


今のショウヘイには知る由もない。


が、跡地を見ていると、なぜか寂しさを感じた。



「おーーい!! ショウヘイ、何してんだよ!! 置いてくぞーー!!」


「早くしないと花見の席取られるだろーー!!」


ショウヘイの友達が、遠くから大声で呼んでいる。



「今行くーー!!」



あの日からなのか、何か別の切っ掛けがあったからなのかは分からないが…。


今のショウヘイは、



桜が好きだった。



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───西暦2025年(令和7年) 11月 28日 (金) 7:45

───霊峰学園 初等部新校舎 三年教室



「ピーちゃん、死んじゃった…」


「逝ってしまったか…、ピーちゃん…」


初等部三年で飼われていたセキセイインコのピーちゃんが死んだ。

享年10歳、大往生だ。



「埋めて…あげなきゃ…」


「我も手を貸すぞ…!」



ピーちゃんの亡骸を大事そうに抱えた生徒達と一緒に、ラーゼロンは百色の根元までやってきた。



「百色の下に埋めるのか?」


「うん。学園のペットが死んだら、みんな百色のそばに埋めるの」



ラーゼロン達は百色の根の近くをスコップで掘ると、ピーちゃんをそっと置き、土を被せた。


そして、手のひらを合わせる。


「ピーちゃん、バイバイ…」「天国でも元気でね…」


「さらばだ、ピーちゃん…。お前と過ごした僅かな時間、悪くなかったぞ…」



いつの間にか、数体のピンク色の人型がラーゼロン達の周りに現れ、手を合わせていた。



晩秋の風が吹き抜け、くすんだ色の落ち葉が舞う中、百色だけが、桃色に、鮮やかに咲き誇っていた。


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