第14話 狐の嫁入り 3/6


───西暦1957年(昭和32年)

───霊峰学園 初等部校舎 保健室



私のケージには、あの時、稲荷川が巻いてくれた包帯が、今も埋もれている。

稲荷川は捨てようとしたけど、私が引っ張って拒んだ。


私を野生と切り離し、生命を繋いでくれた医療まほうの包帯だから……。


寝る時は包帯にくるまって眠る。

稲荷川の匂いと消毒液の匂い……。

とても心が安らぐ……。



『ピンポンパンポーン』



その日の放送は、いつもの怪異警報とは何やら様子が違っていた。



万治郎は血相を変えて学園外に飛び出していった。



残った教職員は生徒達を寮に集め、厳重警戒。


私は稲荷川の肩に乗り、彼の呟きを聞いた。


「まさか、人に攻め入られるなんてね…」



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───同日

───富士の樹海



「どうしてバレちゃったのなぁ? 僕って霊気を持たない一般人なのに」


「なぁに、儂特製のおまじないを練り込んでおいたのじゃ。以前、ぶん殴った時にのう。…四谷よつや 段逸だんいつよ」



その男の名は四谷よつや 段逸だんいつ

憲兵風な出で立ちの青年だった。



「あーあ、やっぱズルいなぁ、霊能力者ってさ」


「何しに来たかは知らんが……大人しく帰るなら半殺しで済ませてやるぞ」


「どうせ半殺しにされるなら、戦った方がマシだ、ね!」



パンパンパン!



四谷は素早く銃剣を取り出すと、3発、万治郎へ発砲した。



「懲りん奴じゃのう…」


弾丸は万治郎に当たった。

が、貫通するどころか傷付けることもなく、万治郎の皮膚の表面で止り、ポロポロと落ちた。


「そんなもん儂には効かん。知っとるじゃろ? 儂の霊能力を…」


「ああ、知ってるとも! ズルい霊能力者共の中でも、飛び切りズルいアンタの霊能力! でもさぁ……」



「…む? …かはっ!? これは…!?」


万治郎は吐血した。



「毒だよ。弾に練り込んでおいたんだ。これならアンタの霊能力でも関係無い」


「はぁ…はぁ…! たかが毒如き…儂に効くと思うなよ…!」



「ただの毒じゃないよ。妖狐の毒石…『殺生石』さ!」



「殺生石!? 殺生石を砕いたのか?! 馬鹿な…! 封印が解かれたという報告は入っとらんぞ…!!」


「石を割って、テクスチャを貼って元通りに見せてるんだ。テクスチャが剥がれるのは65年後……2022年かな?」


「それで、中身は何処におる…?!」



「ほら、僕ってハンサムでしょ? だから彼女にもモテちゃってさぁ。封印を解いたお礼にって、僕のお嫁さんになってくれたんだ」


「何処におると聞いておる!!」



「霊峰学園だよ。ズルい霊能力者共を皆殺しにしてってお願いしたからね」




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───同日

───霊峰学園 学生寮前



唐突に現れたソイツは、登場とともに音楽教師の瀧口の頭を吹っ飛ばした。


瀧口…。

私の所在についてグチグチ言っていたが、陰ではこっそり給食の肉をくれていた。

そんな瀧口の死に直面して、私は懐かしい気持ちになった。

懐かしい、野生の頃の気持ちに…。


思えばソレは霊峰学園に来て初めて目の当たりにした死だった。



ソイツは瀧口を殺した後、九本の尻尾をなびかせながら、こう名乗った。




玉藻たまもまえに御座います」


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