第3話 昔みたい

「忙しいのに、すまない」

「いいさ、ナオのためだ」

「おい、おれのナオさんを呼び捨てにしないでくれ」

「えっ、まだ女房をさん付けで呼んでるのか」


 レイが2人の間に割って入り、コーラを1本ずつ置いた。


「喧嘩してないで、早くしないとナオさん待ってるよ」

「おう」


 2人同時に返事して、コーラで乾杯をした。

 それが戦闘開始の合図だった。


「ここまでは楽勝だけど、蜘蛛の巣は苦手だ。哲兄、頼む」

「ああ、任しとけ」


「ルナちゃん、トイレ行って、ねんねしようか」

「うん、ママー」

「今、哲おじさんとパパが助けに行ってるから」

「ママ、かえてくりゅ?」

「うん、すぐ帰って来るよ」


「それにしても、ナオさん、どこに行ったんだろうな」

「俺が帰って来る前までは、いたそうなんだ」

「子どもを置いて、そう遠くへは行ってないはずだ。この敷地内にいるんじゃないか」

「何のために消えた。このゲームをさせるためにか?」

「どちらかというと、俺らを合わせるためとか」

「へっ?」

「今は、これに集中しよう。クリアしないことには、ナオさん帰って来られないんだろう。このシーンのジェットコースターは苦手だ、一平、頼む」

「ああ、了解」


 一平の胸に何かがひっかかっていた。 

 だけど、哲平の言うように集中しなければゲームも出来ない。   子ども頃のように、ゲームにしくじったからといって、何度も同じことを繰り返す気力もなくなっていた。


「おかえり。先にお風呂入っちゃってね」


 玄関先の遼平と一之介に小声でレイは言った。


「あれ、パパたちゲームしてる」

「もうすぐ終わるから静かにしてね」

「何かわからないけど、わかった。一ちゃんお風呂行こう」


 部屋の中なのに、遼平は弟の一之介の手を離さなかった。

 幼稚園が終わったあとのスポーツクラブのバスが家の門扉に横付けされて、バスを降りてからもすっと繋いだままだった。母親のナオの言いつけを守っているのだ。






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