第2話 性欲ドピュドピュ

私の覚悟から変わったことが三つある。


まず第一に、身体に纏わる知識が増えた。知っているだろうか。処女膜は正確には膜ではなく、女性器の開口部分の外にある肉のひだだということを。しかもシュシュのように収縮自在のため、挿入で破れるとは限らない。ようするに、股を観察したところで処女かどうかはわからないのである。ざまあみろ処女信者!!!!


気を取り直して。第二の変化は、彼がスキンシップを拒まなくなったことである。これは私の行動の変化によるものだろう。彼の前では極力肌を見せないシスター服擬きを着るようにしているし(露出度の低い服の下にマイクロビキニ+Tバックを着るのは中々に興奮する。コートの下は全裸的なスリルがたまらん)、日常用語であった隠語もださないように矯正した。

この工夫のお陰で、ニールには「やっと羞恥心が芽生えたんだな」と頭を撫でられた。羞恥心?私の身体はどこに出しても恥ずかしくないえっちな体形をしているだろう。そう思ったけれど、ニールの大きな手に包まれるのは大好きだから黙っておいた。


さて、ここまで見ると中々に順調であるように感じられるだろう。しかし問題は第三の変化である。これが非常に困難で、大きな葛藤を生み出していた。



♡♡♡



こんなに凛々しい顔をしているが、私とヤるまで彼は童貞だったのである。

そんな脳内アナウンスと共に、既に朝の支度をするニールの様子を舐めるように見つめる。


股下2mなんじゃないかと限界オタクの如く疑ってしまうような長身と、鍛えられた身体つき。完璧な肉体の上に乗る顔には、まっすぐ伸びた鼻と厚めの唇が並んでいる。その鋭い眼は、寡黙な性格や固まっていると評される表情筋も相まって、冷たい印象を与えることが多い。


そんな彼の瞳が情欲の色を乗せ、服の下にある肌が汗ばむ瞬間を思い出し、思わず唇に舌を這わせた。ムラムラした私は身を起こし、彫刻のように整ったその身体―――まあ、彫刻のように可愛いサイズはしてないが(ちんちんの話)―――に手を伸ばした。が、自分が清楚系であることを思い出し勢いを止める。


「っ、…お、おはよう、ニール…ッ」


今朝は朝勃ちしたか?しゃぶらせてほしいんだが…。そう口に出したい衝動を必死に抑え挨拶をした。


「おはよう。…すまない、起こしてしまったようだな」


私の声に反応した彼は、こちらを振り返りそう言った。彼のバリトンボイスにショーツを濡らしながらも、「君の気配で起きたんじゃなくて、君と会話がしたくて勝手に起きただけだよ」と爽やかに返しベッドを降りる。


さて、こんな風に同じベッドで起きる人間達を見たのなら、昨夜はお熱い夜を過ごしたと思うだろう。少なくとも私ならそう思うし、ここから朝にも拘らず夜の営みに更け込み遅刻しそうになるのもまた趣があると思う。



しかし、だ。私達は朝の営みどころか夜の営みすらヤっていない。


冗談はよせって?はは、「冗談ならどれだけ良かったか」っていうテンプレな返事が欲しいのならバイアグラを持ってこい。何度でも言ってあげよう。心が死んでいる私に対し、黙り込んでいたニールは声を掛けた。


「…その衣服、」

「え?ああ、これかい?」


気づいてくれたのか。彼の言葉に気持ちが和らぐ。

…ふふ、可愛らしいパジャマだろう?淡い空色のふわふわとした生地で作られた、「じぇらぴけ(正式名称は知らない)」というブランドのパジャマに内心胸を張る。寝るときは全裸派だし、私の好みではないけれど、こういうのが男受けというやつなのだろう?


普段であれば平然とそう言ってしまうけれど、それを表に出しては打算的だとばれてしまう。それは「清楚系」ではない。私は目を逸らし頬を赤く染め、その口を開いた。


「き、君がいるのに裸で寝るのは、その、少々恥ずかしくてね…。…似合わないだろうか…?」


少し潤む眼、見上げるような視線の角度、頬を隠す手の動き…、どうだ私渾身の恥らいの表情は。完璧だろう?

それに私は知っているぞ。私のような所謂クール系の容姿の人間が、可愛らしいものを身に着けることに不安を感じる姿は男受けがいいと!

鏡の前で何時間も練習した動きを披露しながら、彼の動きを待つ。数秒後、彼はどこか恥ずかし気に口を開いた。


「…似合わないとは言っていないだろう」


そんな低い声が聞こえたかと思うと、頬に手が添えられる。そのまま近づく距離に内心ガッツポーズをした。さあそのままキスをしてくれ!出来れば舌も入れてくれ!!あわよくばちんちんも挿れてほしい!!!

期待で胸が躍る中、彼に視線を戻すが………


(……あれ?)


眉間に寄せられた皺、一文字で結ばれた唇、どこか剣呑な色を浮かべた瞳…。十数センチ先で、彼のそんな姿が見えた。…まだ、清楚系要素が足りないということだろうか…?

彼には憂いも物足りなさも感じて欲しくない。私で満たされて気持ちよくなって、満足した姿を見せてほしい。そんな欲求を満たすために、私は再度『清楚系』の演技を追加した。


「っ、駄目だ!…ま、まだ日が浅いだろう…ッ、!?」


赤らめた頬と逸らす視線。加えて添える程度の力で彼の胸板を抑える。私懇親の口先だけの「やめて」だ!さあ存分に煽られてくれ!!


「……、それもそうだな」


―――え?

期待とは程遠い、頭上から降る言葉に耳を疑う。遠ざかる体温に視線を戻すと、そこには外への扉に向かう彼の後ろ姿があった。

…っ、そうだ!彼はニールじゃないか…!『人の嫌がることはしてはいけない』をそのまま情事に持ち込む堅物男!可愛い!可愛いぞ!最高だ!!


―――でもこんなにも煽っておいて、このまま放置はあんまりじゃないか!!!


「に、ニール!まだ朝食を取っていないんじゃないか…?」

「伝えていなかったならすまない。今朝新人の稽古を付ける約束をしていて、早く出ないと間に合わないんだ」


し、新人くんだと…!どうにかして彼を繋ぎとめようとしたが、『新人くん』の名に撃沈してしまう。

ニール率いる王国騎士団の元で修行を始めた、『1000年に1人現れる伝説の勇者』と名高い彼。いつも女の子達に囲まれていて特徴のない容姿をした…、ラノベ主人公みたいな人物だ。人を惹きつける何かがあるという彼は、寡黙で近寄りがたいとされるニールにも気に入られている。私も新人君のことは愛らしく思っているけれど、このタイミングで名前を出されると、ついうっかり呪い殺したくなってしまう。


「また週末に会おう」


色んな感情に固まる私を置いて、ニールは扉の向こうへ去っていった。

王に仕える彼は、城に近い騎士団の移住区に住んでいる。キス一つなし、深刻なニール不足のこの状態で、どうやってこの一週間を乗り越えろと言うんだ。ぎゅ…っと、もどかしさと切なさで、心臓と膣が絞られる。



―――さて、これが冒頭で出た第三の変化だ。清楚系になった結果、初夜直後よりはましになったものの、有り余る性欲を満たしてくれたニールとのスキンシップが激減したのである。

今すぐ揉んで吸ってしゃぶりつきたい。ああニール、お願いだ。濃厚ザーメン、おちんぽみるく、…どんな呼び方でもするから精液を飲ませてくれ。できれば下の口で。


「っく…!いつまで続くんだこの生活は…ッ!!」


可愛いパジャマも濡れたショーツも脱ぎ捨て、私は苦痛に顔を歪ませる。…せめてニールの勃起したペニスの型を取れないものだろうか。魔法で引き寄せ、ベッドの上に落としたアダルトグッズ達。その中に紛れる『ちんこからディルドが作れるキット』に真剣な眼差しを向けた。


「………あれ?」


キットの傍ら、見覚えのある布が目に入る。それなりの大きさがあるサイズ感、夜に溶け込む生地の色…、間違いない、ニールのインナーだ。


「忘れてしまったのか…」


これを機に、私の家に泊まった時用として置いておけば良いだろう。そう思ったけれど、彼はミニマリストのためこういった衣服すら最小限しか持ち合わせていない。まあ、何てことない市販のものだから、新しく購入してもらってもいいけれど…。

ちらりとその布に視線を寄越し、そのまま手に持つ。触れた個所からは、じんわりと魔法の気配を感じた。軍服の下に着ることもあるこの衣服に、以前私が防衛魔法を掛けたからだ。


…魔法の掛かっていないものを着て、彼が負傷したら…。

背筋にヒヤリと冷たいものが伝う。駄目だ。可能性が0ではない以上、今日は彼にこれを届けなければならない。ついでに新しいものを購入し魔法を掛け、私の家用として置いておけばいい。


そうと決まれば、さっそく行動だ。時計を見て時間を確認すると、彼の外出から左程時間は立っていなかった。追って渡せば間に合うだろう。


「よし、早速彼を追………、ッ」


行動に移そうと視線を戻し、息を飲む。

そこには、夢のような光景が広がっていた。ニールの香りのする衣服と、散乱するアダルトグッズ、そしてここはベッドの上…。発情期の獣の如く火照った身体を慰めるには、格好の状況だった。


「ふふ、えへ……♡さ、さきっぽだけ、さきっぽだけだから…♡♡♡」


だってほら、今日は戦じゃなくて新人くんとの手合わせだけだし。怪我しないだろうし。そんな急ぐ必要もないだろう?

私は瞬時にコンドームを装着させたディルドを掴み、衣服に顔を押し当てる。彼の香りがいっぱいに広がり脳がくらくらした私は、空いた右手を下の口に持っていくのだった。先っぽどころか奥まで呑み込んだことをここに記しておく。

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