第7話 「過去とカンパニュラ②」
練習終わりに櫂に呼ばれグランドに出ると急に
「おい、お前何にそこまで緊張してんだ。たかがアイツの代役ってだけで何をそこまで思い詰めることがある?」
と言われた。いつも涼し気な顔をしている櫂に言われたのがこの時の俺は何故か悔しく感じて
「……お前に俺の気持ちが分かるかよ」
と吐き捨ててしまった。それと同時に今まで溜め込んできた感情が津波のように押し寄せる。
「お前はいつもチームの中心で、先輩達よりも上手くて、自分のプレーに絶対的な自信があるだろ。そんな奴に、俺の抱えてるプレッシャーなんて分かる筈ないんだよ」
そう言うと、櫂はふっと笑い
「確かに分かんないな。お前、自分のことアイツより劣ってるって思ってない?」
少しいつもより雰囲気が柔らかくなったような気がした。これが櫂の素なんだろうか。
「いや…そりゃそうだろ。だって俺はお前のパスに追いつけてないし、決定機すら外してんだぞ。」
誰がどう見たって俺の方が劣っている。そんな分かりきったことを聞く奴だとは思ってもいなかったからそこから先何を言えば良いのか分からなくなった。すると櫂が呆れたように
「お前に出してるパスは俺の"本気"のパスだ。確かに最初は追いつけてなかったけど、今日はトラップをミスしただけであとは完璧だった。」
…そうなのか。そうだったのか?自分のことに必死でそんなこと気にしている余裕はハッキリ言って無かった。それに、と続けて櫂は言う。
「それに、あの先輩にも本気のパスは出したこと無いよ。お前が受け手だから出したんだ。確かに経験だったりフィジカル的には先輩の方が勝っていると思う。だけど、」
いつも無愛想で何考えてるか分かんなかったけど櫂はチームのことを、そして俺達1年のことをよく見てくれてたんだ。泣きそうなのをなんとか堪えて、櫂の方を見る。
「だけど、俺はお前があの先輩に劣っているとは1ミリも思わない。」
その言葉を聞いた瞬間、肩に重くのしかかったプレッシャーがすぅっと消えた。
「明日は頼むぞ!櫂!」
「こっちのセリフだわ。泣きそうな顔すんなよな、彰」
この時、俺は何があっても櫂の味方でいようって決めたんだ。
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