第6話 「過去とカンパニュラ」

櫂と初めて会ったのは中学の部活動体験の時だった。当時のサッカー部は県大会でベスト8くらいの実力で、それなりにレベルも高かった。そして同学年には小学校の時に選抜で一緒だった奴も多くて俺らの代は豊作なんじゃないかと期待されていた。

顧問の先生と部長が挨拶と活動内容について話している時、1人だるそうにしている奴がいたんだ。

いかにも暗そうで運動も出来なそうな見た目をしていて、周りの奴らも少し舐めていたと思う。俺もなんでサッカー部に見学をしに来たのか不思議に思っていたんだが、練習が始まるとその場に居た全員が圧倒された。俺たち同学年の奴らは勿論、櫂は2つ上の先輩達相手にボールを一度も奪われないどころか触る事さえも許さなかった。俺は外からその姿を見ていたが、あの日の記憶だけは生涯忘れない自信がある。顧問の先生も櫂のプレーに唖然としていたが、俺が更に驚いたのはその後だ。先輩達は俺たちからすると少し怖くて近寄り難い存在だったのだが、そんな先輩達に向かって練習が終わった後

「県ベスト8レベルだとこれくらいか」

と吐き捨てたんだ。俺だけじゃなくて他の奴らもかなり焦っていたが、当然先輩達は聞こえていたからすかさず櫂を睨みつけた。すると当時エースだった3年の先輩が櫂に

「お前今なんて言った?多少上手いからって調子乗ってんじゃねえぞ1年が」

とかなりイラついている様子で言ったが櫂はそんなこと気にせず

「このレベルで圧倒したところで調子になんて乗れないんで安心してください」

とにこやかに返した。いや何煽るようなこと言ってるんだコイツとハラハラしている俺達なんて眼中に無く、まだ入部すらしてない状態で先輩達に喧嘩を売った櫂を俺は心のどこかで尊敬していた。

入部してからも特にさっき言ったエースの人とは険悪な感じが続いてて、1年の俺達は何かトラブルが起きないように気を張ってたせいで練習どころじゃない。でも試合になるといつも通り周りを圧倒するし、エースの先輩にもしっかりアシストをする。

そしてチームは調子を上げ、県大会も危なげなく3回戦まで突破した。だけど、ベスト4進出をかけた試合が目前に控えている中でアクシデントが起きたんだ。エースの先輩が練習中に足首を捻り全治3週間。とても明後日の準々決勝に間に合うような怪我では無く、その代役として同じポジションの俺が選ばれた。練習試合ではちょくちょく途中交代でプレしていたし、周りの奴らからしたらラッキーだと思うだろう。でも俺の頭の中には先輩の代役にとてつもないプレッシャーを感じていて、まともな精神状態でプレー出来なかった。櫂のパスには追いつけないし、決定機も外す。誰の目から見ても俺が使えないというのは明白だった。その調子のまま試合前日の練習が終わった時、櫂に声を掛けられたんだ。

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