第4話 「雨漏りと紫陽花」
つい先日体育祭が終わったというのに、世間では今年早めの梅雨入りになると報道している。
ちなみにその体育祭はどうだったのかと言うと、僕たちのクラスが所属した団が見事優勝しその他色々な賞まで総ナメする結果となった。
確かにクラスの皆が頑張っていたからこの結果は当然と言えばそうなのだろう。ただ1つ__気になることがあった。
森元智亜貴は本番1週間前まではリレーやダンスにも出ていたのに本番になり急に玉入れなどあまり体を動かさない種目に移った。最初は怪我か何かだろうと思っていたのだが、見たところ特に怪我をしている様子は無い。
だが結果としてクラスは最高の結果を掴めたから良いのだが、少し違和感の残る体育祭になった。
そんなことを教室でぼんやり考えていると
「おい櫂助けてくれよぉ。暑くて死にそうなんだよぉ。せめてクーラーくらいは使わせろよなクソ教師共がー!」
と珍しく弱音を吐く彰に少し頬が緩み
「まぁ確かに暑いな。6月でこれなら夏休み辺りには干からびてるんじゃないか?」
と冗談交じりに返した。
それにしても本当に暑い。
僕たちは今普段使っている教室とは別の教室にいる。今からちょうど1週間前に雨漏りがあり、その影響で教室移動を余儀なくされたのだ。
だが移動したは良いものの、クーラーや扇風機は無く元の教室より1階上の4階になるなどプラスな面が殆どない移動で、当然クラスは不満の声で溢れた。
だがこうなってしまった以上何を言ってもしょうがない、という結論に至り毎朝いつもより24段多く階段を登っている。
「それにしても相変わらず森元は元気だなぁ。こんな暑いってのによくいつも通りでいられるぜ」
と彰が言うので「中学からずっとあんな感じだろ」と素っ気なく返す。
クラスの空気が若干重い中、確かに彼女の周りだけは明るいように感じる。それは彼女の持ち合わせた天性のものであり、僕のような凡人には当然無いものだ。
その姿を見る度に心が痛くなる。どうして僕は彼女にあんなことをしてしまったのだろうか。
今考えれば他にも方法はあったというのに僕は自分が1番楽な方に逃げた。
そんなことばかり考えていると、後ろから人の気配がした。目の前には彰がいるから瑠花か?と思い振り返ると先程まで向こうに居たはずの彼女が僕の後ろに立っている。多少の動揺をどうにか隠しつつ
「昔から気づいたら後ろに居るみたいなのやめろよな。心臓がいくつあっても足りないんだよ」
と言うと
「だって毎回これやるとめっちゃ動揺してるんだもん。面白くてやっちゃうよね」
と彼女は笑いながら言った。どうやら僕の動揺は全く隠せていなかったらしい。意外と自信あったんけどな。そう言えば昔から彰にすぐ感情が顔に出るから分かりやすいって言われた記憶がある。
「で、何の用?」
と聞いたタイミングで丁度朝のホームルーム開始を告げるチャイムが鳴った。
「あ、後で!」
言いそそくさと自分の席に戻る彼女だが、その歩いて戻っている姿に僕は違和感を覚えた。
フラフラとしているのだ。途中の席にも足や腰をぶつけ謝っていたが、明らかにいつもの彼女とは様子が違った。
さっき話している時も体調が悪いようには感じなかったが、急に目眩でもしたのだろうか。体育祭のこともあって少し嫌な予感はしたが、あまり気にしないようにした。担任が教室に来てホームルームが始まり、予定などの簡単な確認をして3分程で終わった。するとまた彼女が僕の席へと向かってきた。
今は特にフラつきも無いように思う。僕の勘違いだったのだろうか。その時
「おーい如月、渡すものがあるから職員室まで来てくれ」と担任に言われ、彼女にごめんと言い僕は教室を出た。そして先生について行き、ある紙を渡された。
________部活動入部届。
「如月、お前が中学のサッカー部でキャプテンを務め県大会で優勝までに導いたというのは耳に届いている。どうだ、高校でもやらないか?」
この人、佐久間翔哉先生は一体僕の何を知っているのだろう。
「今すぐに決めて欲しい訳じゃないから、家に帰ってでもゆっくり考えてくれ。」と言い残し次の授業のある教室へと向かっていった。外は大量の雨が降っていて、僕たちの気持ちを暗くしていく。
静かな廊下で僕の吐いた溜め息は、雨音の中に消えていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます