第3話 「体育祭とハナミズキ②」

「あれ?どうしたの?」

聞き慣れた可愛らしい声が耳をくすぐる。どうして彼女がこんな所にいるのかという疑問はあったが、とりあえず答えなければと思い

「瑠花に去年と一昨年の体育祭の記録表を持って来て欲しいって頼まれたんだよね」となるべく目を合わせないように返した。

「へぇ〜そうなんだ。相変わらず優しいね」

「ただ瑠花に嵌められただけだよ。普段あんな顔してるのに腹の中真っ黒だからなぁあいつ」

と素っ気なく返しはしたが、別れた今でも彼女に褒められると顔が少し熱くなってしまう。単純に僕が意識しているだけで、彼女は特に何も意識していないのだろう。ただ、こうして彼女と話している自分に毎回罪悪感を感じてしまう。あれほど酷いことをした自分がこれ以上彼女に関わってはいけない。そう頭では分かっているのだが、この居心地の良さが僕の行動を制限する。

「あ、私探してたやつ見つかったから先に教室戻ってるね!体育祭頑張ろ!」

そう言い彼女が部屋をあとにすると、僕は体の力が抜けたかのように床に腰をついた。

「はぁ〜」

ほっとしたような、寂しいような溜め息が資料室に響き渡る。僕はこれ以上彼女に関わってはいけない。だけど一度しっかりと謝らないと心に区切りがつかないように感じていた。そんなことを暫く考えていると、授業終了のチャイムが鳴った。

腰を持ち上げ、薄暗い電灯の下で「いつか謝ろう」と決心し、資料室を出た。

「………あ、頼まれた資料持って帰るの忘れてた」

この調子じゃいつまで経っても謝れそうにないなと、自分自身に呆れながら感じた。

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