第2話 「体育祭とハナミズキ」
「あっちぃー。まだ5月だってのに暑すぎんだろ。」
「口を動かす体力があるならもう少し手を動かしたらどうだ。」
「いやー俺ちょっと他のクラスどんな感じか見てくるから頼んだ!」
そう言いながら直ぐさま教室を飛び出して行った彰に呆れつつ、僕もこの暑さにはうんざりしていた。5月の半ばにある体育祭に向け、クラス全体で役割分担をして作業をしていたところだが、多くの生徒がこの暑さでやる気が出ていない。勿論僕もその内の1人だ。まだ入学してから1ヶ月も経っていないと言うのに、ここまで忙しいと保健室のベッドで横になりたくなる。特にやる気も出ないまま作業を続けていると、後ろからヒヤリと冷たい感触が首元を伝った。振り返るとそこには「おぉ、結構進んでるじゃん。」と優しく笑う人物がそこにいた。
藤村瑠花____。
高校になってから知り合った瑠花は、少し抜けているところはあるが誰に対してもいつも優しく話している、子犬系男子と言う言葉が良く似合う男だ。
「お茶とカフェオレ、どっちが良い?」
「あー、じゃあカフェオレで。」
「えー、櫂はてっきりお茶選ぶと思ってたんだけどなぁ。」と若干不貞腐れた表情を浮かべる瑠花だが、こういうのを見るとやはり子犬だなと思う。
「いやお前コーヒーとか苦いやつ飲めないだろ。」
「いや!?ちょっと苦手なだけで飲めるからね?」
「で、今回は何をしてくれば良いんだ?」
「あ、やっぱりバレちゃった?」
少し不気味な笑みを浮かべているが、毎回瑠花が気を利かせてくれる時は必ず対価として要求を呑まなければいけないのだ。
「えーとね、B棟の3階にある資料室から去年と一昨年の体育祭の記録表みたいなやつを持ってきて欲しいんだ!」
本当はとても面倒臭いので行きたくないが、瑠花のくれたカフェオレの甘さと冷たさが身体に染みわたったのでまぁ良しとしよう。
はいはい、と重い腰を上げ言われた資料室へと向かう。B棟は2年生が基本的に使っているところだから滅多に行かないため場所に不安はあるが、とりあえず行ってみるとしよう。思いの外すんなりと見つかり建付けの悪い扉を開け暗い部屋に入ると、1つの人影があった。
朝の占いでは2位だったと言うのにこんな事が起きるなんて本当に勘弁して欲しい。
どうして彼女が___
森元智亜貴が、僕の目線の先にいた。
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