第1章 第14話 アーネスト 7歳 逢魔ヶ森の小冒険 その1


夏から秋に変わりつつある1日。

まだ日中の日差しは厳しいが、朝晩は涼しくなっている今日この頃。


今日は朝から、探索に出かけます。森の中を駆け回るのです。カロリーナ領と接するこの森、

通称〈逢魔ヶ森〉の中には、魔族領の出入り口があるから、あまり奥までは行けないが、ちょっとした

冒険者の気分。おらわくわくするだ。


恵みの森ともいえる、豊かな自然があり、様々な生き物が、生命力が溢れている。

名前すらない未知の植物や動物もいっぱいなので、勝手に名前を付けて呼んでもOKだぜ!


メンバーは先生と護衛としてケン、ショウ、ギョウゾウ以下10人程度。

メイドさんが増えたので、晴れて俺の専属となったエリも一緒だ。


勿論お弁当持参です。エルザ達が作ってくれたけど、そろそろコックさんが必要だね。


先生は普段と変わらない服装だが、ケン達の制服はどう見ても迷彩服だ。しかもコンバットブーツ。

機能的でありながら更に〈ゲーム転生者〉の気を引くためのデザインである。


でもって、エリはメイド服のままに見えるが、野戦戦闘バージョンらしい。

穴が開くほど見ても、その違いが分からないが。

分かったら〈通〉と呼んであげよう。


いちいち立ち止まって調べているので、なかなか進まないが、ケン達は退屈するでもなく

周囲に気を配っている。真面目な顔など、余り見ないからレアかも知んない。


そして俺はある植物にに触れて、飛ばされた。


「!?坊ちゃん!!」

いきなり目の前からアーネストが消えた。直ぐに近寄ろうとして先生に止められる。


「待って!動かないで下さい!!」

「なんでだよ!先生!!」

「迂闊に近づくと二の舞になります!」

「!」

「ギョウゾウくん!土の下を調べて下さい!」

「まかせてモー!〈ミカヅチ〉、発動だモー!」


ギュウゾウは土を操作するスキルを持っていて、土の中をレーダーの様に探索する事も出来る。


土の中を調べるのは、養分として根っこあたりに捕まっていないかの確認する為だ。


「……土に中にはいないモー!!」

真面目な顔のギュウゾウもレアかも知れないが、語尾のモーを付けてるので、

残念ながらあまり真剣味を感じない。


「……おそらく別な場所に瞬時に移動させられたのでしょう。」

「なら!触れれば同じところに…」

「同じところに移動するとは限りません。ここでバラバラになるのは拙い。ここを中心として

周辺を捜しましょう。余り離れないで……。」


みんな言い終わるまで待たずに、それぞれの方向に走って行った。

気心が知れているのとは云え、細かい打ち合わせ無しで行動に移れるのは、日頃の訓練の賜物か。


後に残ったのは先生とエリの二人。

「エリさん」

「はい、先生。」


エリが周辺の木々を確認してから、おもむろに一本の木に駆け上がった。

木の天辺まで登ると祈る様な姿で呟く。

「ファンコン・アルファ、起動。」

10センチくらいの魔法陣が10個浮かぶ。

「ファンコン・アルファ、散開。」

魔法陣が一辺が10センチくらいの三角錐に変わり、無作為に飛び回る。


「ファンコン・ベータ、起動。」

同じく10センチくらいの魔法陣が10個浮かぶ。

「ファンコン・ベータ、展開。」

同じく一辺が10センチくらいの三角錐に変わり、エリを中心として回り始める。


アーネストのアイデアで先生が創造した〈探索魔法〉だ。

端末を使っている時点で、従来の魔法とは一線を画している。名付けて〈探査機魔法〉。

ネーミングセンスは壊滅的である。


エリがアンテナになり、先生が受信する。

端末が〈ファルコン アルファ〉、その間無防備になるので、バリアー兼攻撃の"ファルコン ベータ"の

二つからなる広範囲探索の為の魔法だ。




「いやあ、まいったまいった。」

一方、こちらは飛ばされたアーネスト。

のんびりした口調だが、顔色は真っ青で真剣そのものだ。草むらに身を潜めている。


どうやらかなり奥深くまで来たらしい。あの植物は我が身を守る為か、不用意に触れる者を

テレポートさせる能力があるのだろう。ふむふむ。


なにやら冷静に分析しているが、実は現実逃避しているだけである。

なんせ目の前に〈魔獣〉が暴れている。


「なんで恐竜がいるんだよ……。」

どう見ても肉食の恐竜なので、そっと離れることにした。


幸いにも動いた事によって、先生とエリの探索魔法に引っかかった。


「みなさん!見つけました!!」

そんな大声でもないのに、即みんな戻ってきた。


「どこだ?先生!!」

「かなり離れてます。危険です。直ぐ向かいましょう。」


一瞬で隊列を組み、無言で風のごとく走り去って行く集団。かっこいいぞ。


「さあて、どうしたものか……。」

一方またまた飛ばされたアーネスト。

戻ろうにも方角が分からないが、とにかく逃げろとばかり、コソコソと動きだした。

かっこわるいが気にしちゃいられない。


しかし見つかってしまった。じっとこちらを見つめている。どう見ても俺をごはんだとおもっていますおつかれさまでした。

「なんでティラノサウルス(もどき)が……、いや、ギガントだっけ?」


相手は30mはあろうかと云う超大物。強靭な下半身と、強烈な顎。身体に比べて小さい腕。

短い羽毛がある。そして白い。白いと高貴な気もするが、顔は凶悪だ。


回れ右!駆け足前えへ進め!食われたくなかったら!

直ぐ他の恐竜もどきにも見つかったが、全て追いかけて来るティラノサウルスもどきが蹴散らした。強いぞ。


アーネストは必死に走ったが、一向にティラノもどきを撒けない。

このしつこさ!こいつ親父だ!絶対親父だ!

謂れのない言い掛かりを気にもせず、ティラノ親父はアーネシトを追いかける。

なぜしつこいと親父なのかは謎である。


一方、先生達は襲って来る魔物達を軽くいなしながら進んで行く。

先生が小石程の圧縮空気をぶつけ、ケン達もイワオ工房製の吹き矢で応戦する。


吹き矢は全員の標準装備だ。1m弱の細い筒で、普段は三分割で収納している。

3本繋ぐ手間はあるが、弓矢より使い勝手が良い。矢が無くても、棍として使える優れ物だ。

長距離攻撃には向かないが、狩りや混戦では十分威力を発揮する。


結構魔物が邪魔して来るが、走るスピードはまるで変わらない。


前方に人影が現れた。

「止まれ!」


悪い事は重なるんだね、本当に。


よりによって魔族の一行と遭遇した。


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