第1章 第04話 アーネスト1歳 アーネスト立つ!
アーネスト 1歳
「ぱあぱ!」
夜中にこっそり様子を見に来た父ジューダスト
「うおおおおおお……!」
父を泣かす。
アーネストを寝かしつけた後、そっと離れるが、アーネストはすぐ察知して
無邪気に後を追おうとする。片時も人と離れるのがいやらしい。
それでも何とか寝かしつけて、アイルスは執務室へやってくる。
本館(カロリーナの要塞城)の執務室とは比べ物にならないが、
余分な装飾が無い分、落ち着いた雰囲気がある部屋だ。
アイルスと共に別館に移って来たメイドの一人が
紅茶を運んできた。この大陸では、一般的なお茶は紅茶である。
この別館(特に名称は無い)を切り盛りしているのは、アイルス付きとして
アーマンジャック領からアイルスの嫁入りと共にやって来た3人のメイドだ。
名を〈エルザ〉、〈ゼルダ〉、〈ミルザ〉と云う。
中ねん……熟練のメイドであり、料理から掃除まで何でもござれの頼もしい存在で、
アーネストが生まれた時、アイルスを呼んで来てくれたのもエルザだ。
(要塞城では若いメイドから陰で3ババと言われてる、らしい。)
名だたる武門のメイドなので、当然の様に戦闘も熟す。若い騎士の襲撃なんか撃退してしまう。
しかも獲物はフライパンだ。もう、格が違うな。
カロリーナ公爵家の家令であり、全て仕切っている〈ゼービク〉はそのまま要塞城の残ったが、
時々来てくれる。勿論皆アーネストの味方だ。
アイルスは悩んでいた。
もうじき一歳になろうとするのに、立つ気配がない事を。
ずっとハイハイのままだ。
魔力ゼロのせいなのか、普通ではないと感じる事がある。
例えば、アーネストは泣かない。目が覚めた時、誰もいなくても、
鳴き声を上げる事も無く、誰か来る迄じっと待つ。
誰かが来ると、満面の笑顔で迎えるが、その瞳には涙であふれている。
誰であろうと、抱きしめずにはいられない。
庇護欲とか、かき立てられずにはいられない。本能だろうか?
おとなしいのも心配だ。
この頃はノイローゼになる母親がいるくらい、手間が掛かるものだ。
アイルスの心配をよそに、アガーベック一家は来るべき一歳の誕生日を
どう祝うかを悩んでいた。大物なのか、能天気なのか、評価は分かれるところだ。
春先の穏やかな陽気の日、アーネスト一歳の誕生会が開かれた。
夜中のこそっと。
王国にその名を轟かせる辺境伯家の祝いともなれば、家の格式により
それは豪勢なものになるのだが、至って地味な集まりだ。
アイルスを筆頭にアガーベック辺境伯一家3人、それに家宰のゼービク、
エルザ、ゼルダ、ミルザのメイド3人衆、そして父たるアガーベック家からのメイド、
母たるアビエマ家からのメイドが数人、だけ、である。
アーネストは理解しているのか、終始ご機嫌だ。
アルコールは出ない。代わりに母親のアネモラがケーキを焼いて来た。
アネモラの趣味はお菓子作りだ。しかも激甘の。
男衆は切り分けられたケーキを前に沈黙している。
女衆はおしゃべりが止まらない。
そんな時、アーネストが一人で、何にも掴まらないで立ち上がった。
テーブルの上に。
アーネストをあやしていたオーギュストの目の前で立ち上がった!
「ち、父上、母上!」
「おお!」
「まぁ!」
盛り上がりは最高潮に達した!
そんな事より、アーネストを寝せなくていいのか?
夜中だぞ?
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